劉暁波ノーベル平和賞受賞によせて
―敵なしの中国憲法の理念を求める―
幸子(在日中国人)
6日、2010年のノーベル化学賞を日本人2氏が受賞した。こうして、1億2千人口を擁する日本のノーベル賞受賞は18人となった。
在日中国人が、日本の国民とこの喜びを分かち合いながら、服役中の中国民主活動家劉暁波が2010年のノーベル平和賞を受賞することができるかどうかを、温かく見守っていた。
2日後、劉暁波が2010年のノーベル平和賞を受賞し、13億人口を擁する中国にとって“悲願”であった国内在住の中国人として初のノーベル賞受賞者となった。残念なことに、中国では、厳しい報道規制のため、このニュースはメディアに取り上げられることがほとんどなかった。
劉暁波氏のノーベル平和賞受賞は、中国の民主化に積極的な役割を果たせるだろう。中国国民の間で憲法政治の改革を求める声が高まっていることを国際社会が認識していることは、この受賞で明確に示されたと思う。
実に、海外に逃れた中国民主活動家の間で、劉氏をノーベル平和賞の候補として推薦することに反対する声もあった。その論争の焦点は、政権と和解するかどうかにある。劉氏は、服役前に自分の判決に対して書いた答弁書『私には敵なし:私の最後の陳述』で、「私を監視し、私を捕まえ、私を職務質問する警察、私を公訴する検察官、私を判決する裁判官のすべては、私の敵ではない。…私が個人的な境遇を越えて、国家の発展と社会の変化を見守り、政権の敵意に対して最大の善意を持ち、愛を以て憎みを解けると期する」、と政権との和解、非暴力的な闘争を主張する。
この観点は、10月発売されたばかりの在日中国人研究者晏英氏の本『
近代立憲主義の原理から見た現行中国憲法』でも見られる。「敵はもう存在していない。法律は敵を鎮圧する道具ではなく、ただ公共秩序を守るための共通のルールである。たとえ犯罪者でも、敵ではない。犯罪者は社会の共通の手続きを破ったが、食うか食われるかの敵ではない。真の開放な社会は、敵が存在しない。この理念こそ中国が目指す「調和社会(調和を取れる社会)」に相応しいものである」、と晏氏が述べている(p.316)。
だが、中国憲法の前文で、「わが国において、搾取階級は、階級としてはすでに消滅したが、なお一定の範囲で階級闘争が長期にわたり存在する。中国人民は、わが国の社会主義制度を敵視し破壊する国内国外の敵対勢力および敵対分子と闘争しなければならない」、と掲げられている。既に搾取階級は消滅したため、たとえ犯罪分子や悪徳分子がまだ存在しても、プロレタリアート独裁が堅持されるべきとは考えにくい。せいぜい治安上レベルの問題だろう。
これから、中国には敵なしの憲法理念が求められるだろう。劉氏の受賞は、この長い道のりの出発点だと期待している。