JETROアジア経済研究所の学術誌である『アジア経済』に、徐一睿氏著『財政調整制度の新展開――「調和の取れた社会」に向けて――』(2010年5月 日本僑報社出版)が書評欄に大きく取り上げられた。
本書は中国の政府間財政移転制度が地域間格差の是正に貢献しているかどうかという問題意識を出発点としている。中央政府からの補助金、とりわけ「専攻補助」(使い道が決められている資金で、日本の国庫支出金に相当)の交付がどのようなメカニズムによって行われ、そのシステム自体がどのように転換してきたか、それが基底レベルでどのような経済効果をもたらしたかを検証している。
現代中国を理解するには、医療と教育がキーワードとなってくる。中国政府による公共サービスの一環として行われている新型農村合作医療制度を論じた第4章と義務教育財政を論じた第5章では、成立する過程における各レベルの政府が負担する割合と変化の指摘は非常に斬新であると評価を頂いた。
財政専門家以外の読者にとっても多くの示唆に富んだ指摘が含まれている。また財政移転制度の効果を検証するために様々な統計年鑑資料を入念に調べたうえで、綿密なデーター解析を行い、わかりやすい図表で説明している点も高い評価を受けた。
本書は2010年5月に日本僑報社から刊行された後、数々の賞を受けた。八重洲ブックセンター中国関係書籍ベストセラー5位入賞以外、2011年には第11回日本地方財政学会佐藤賞を受賞、その後中国経済学会の学術雑誌にも大きく取り上げられた。
徐一睿氏は1978年上海生まれ。1997年に日本へ留学し、1999年に慶應義塾大学の経済学部に入学、2009年10月に慶應義塾大学で経済学博士号を取得した。現在は慶應義塾大学の助教を務めている。最新の学術成果は『移行期における中国郷村政治構造の変遷―岳村政治』を訳した。