日本湖南友好使者の湖南見聞録 その一
湖南の名所探訪 第1回 毛沢東の故郷
多田州一
この十数年、中国を歩き続けてきた。
もともと中国の歴史と文化に大きな関心があったことは言うまでもないが、実際に各地の名所旧蹟を見て歩くことによって、視野と見聞を広めてきた。
とくにこの二年ほど、私は仕事の関係で湖南省に滞在していたことから、暇さえあれば省内の山河を訪ねる旅に出た。そこで「湖南の名所探訪」シリーズでは、私自身の体験をふまえながら、これから数回にわたって、湖南省の名所を紹介していきたい。
湖南省は「洞庭湖の南側」に位置することから「湖南」とよばれているのだが、内陸部ゆえに日本の読者諸氏におかれては、ひょっとしたらあまりなじみのない土地かもしれない。
しかし、湖南は南方の諸都市の中でも、ひときわ精彩を放ってきた。そもそも春秋戦国時代、湖南は(洞庭湖北側の)「湖北」ともに、楚の国に属して以来開発が進み、中原とは異質で独特な文化が形成されてきた。
とりわけ注目すべきは、湖南から多くの著名人が輩出されているということだ。古くは屈原や蔡倫がいるし、清末から民国期にかけては曽国藩や左宗棠、そして辛亥革命の功労者である黄興らが出ている。また、共産党関係者では毛沢東、劉少奇、任弼時、賀龍、彭徳懐、華国鋒、胡耀邦、朱鎔基と枚挙にいとまがないし、文化人では斉白石や沈従文など、実にそうそうたる人物がこの地域の出身なのである。
一方、湖南は美しい自然に囲まれた風光明媚な地方として知られていて、「芙蓉国」という別称もある。省内には長沙市を南北に縦断する湘江をはじめとする河川が多く、その周辺が中国有数の穀倉地帯になっていることから、「魚米の郷」とも言われている。げんに、省内の飲食店では淡水魚の料理が多いし、ごはんのおかわりも自由である。
さて、湖南出身の有名人の筆頭といえば、やはり毛沢東(1893~1976)であろう。毛沢東の故郷・韶山は、長沙市から南西約100キロの緑豊かな丘陵地帯にある。
私がそこを訪れたのは、2010年の4月初め(清明節)であり、唐の詩人杜牧が「清明時節雨紛紛」と詠んだように、細かで霧のような小雨がちらついていた。
韶山は、清渓景区、故居景区、滴水洞景区、韶峰景区のいくつかに分かれているが、その日も「韶山一日ツアー」に参加した観光客でにぎわっていた。
私が訪れたのは、故居景区が中心であったが、緑豊かな農村風景の中に、毛沢東の銅像と彼の業績をたたえる記念館、そして生家(故居)があった。また、その近くには、毛沢東の後を継いで第2代国家主席となった、劉少奇(1898~1969)の故居、銅像および文物館もあり、激動の中国現代史を紹介する観光名所となっている。
あたり一面に花畑が広がった、のどかな田園風景。歴史に残る革命家たちの生い立ちに思いを馳せながら、湖南における名所探訪の旅が始まった。