豊子恺(Feng Zi-kai,1898-1975)のメッセージの中には、彼自身も願っていた争いのない平和な世界へ生まれ変わるヒントが隠されています。
豊子愷は近代中国を代表する芸術家であり、文学者、漫画家、美術音楽教育者、翻訳者など多彩な顔を持っています。1898年に中国の浙江省で生まれ、1921年には日本へ留学して美術や音楽を学びますが、そこで目にした竹久夢二の絵に影響を受け、それが情緒あふれる『子愷漫画』の基礎となります。
豊子愷は子供好としても知られていて、子供の純粋な感性を愛し、多くの子供向け文学作品を残しています。冒険物語や音楽理論を分かりやすく語ったお話などが、筆でかかれた挿絵とともに生き生きと表現され、当時の子供達を魅了しました。豊子愷自身も良き父親でしたが、子供たちが育っていくのを喜ぶと同時に、彼らが少年時代に別れを告げることを惜しむ作品を残しています。
文化大革命では他の知識人とともに批判の対象となり、制作禁止を命じられるなど不遇の時代もありましたが、1990年代に入って再び脚光を浴び、機知とユーモアに富んだ散文や漫画は中国国内にとどまらず、広く世界に愛されています。翻訳家としてはロシア文学などのほか、『草枕』や『源氏物語』の中国語訳でも知られています。
日本ではまだあまり知名度の高くない豊子愷ですが、この度の出版を通じて多くの方に彼の作品を知っていただき、当時の中国の世相や人間社会に普遍のテーマを感じていただければ幸いです。