日本僑報社の発表によると、近代中国を代表する芸術家であり、文学者である豊子愷(ほう・しがい、Feng Zi-kai)の子供向け文学作品を網羅的に収録した『豊子愷児童文学全集』(全7巻)の日本語版が、7月から順次刊行されることが決まった。
原書のシリーズは、中国・北京の海豚出版社刊。中国では、その作品が小中学校の「語文」(国語)の教科書に採用されるなど広く知られている
本格的全集の日本語版は、日本では初のお目見えとなる。
豊子愷(1898-1975)は、近代中国を代表する芸術家であり、文学者、漫画家、美術音楽教育者、翻訳家であるという、多彩な顔を持っている。
1898年に中国浙江省で生まれ、1921年に日本へ留学して美術や音楽などを学ぶ。そこで目にした竹久夢二の絵に影響を受け、それが情緒あふれる『子愷漫画』の基礎になった。日本では竹久夢二と親交を深めたという。
また、たいへんな子供好きとしても知られており、子供の純粋な感性を愛し、多くの子供向け文学作品を残している。冒険物語や音楽理論をわかりやすく語った話などが、筆でかかれた挿絵とともに生き生きと表現され、当時の子供たちを魅了した。
豊子愷自身も良き父親であったが、子供たちの成長を喜ぶとともに、彼らの少年時代への別れを惜しむ気持ちをつづった作品も残している。
「文化大革命」では他の知識人とともに批判の対象となり、制作禁止を命じられるなど不遇の時代もあった。だが、1990年代に入って再び脚光を浴び、機知とユーモアに富んだ散文や漫画は中国国内にとどまらず、広く世界の人々に愛されている。翻訳家としてはロシア文学などのほか、『草枕』や『源氏物語』の中国語訳でも知られている。
待望の『豊子愷児童文学全集』日本語版は、『少年美術故事』『少鈔票歴険気』『中学生小品』『華瞻的日記』『少年音楽故事』『給我的孩子們』『博士見鬼』の全7巻(いずれも原題、順不同、日本語題未定)。
そのメッセージの中には、彼自身も願っていた「争いのない平和な世界」をつくるためのヒントが隠されているかのようだ。
日本ではまだあまり知られていない豊子愷だが、全集の出版を通して名作の数々を知っていただき、中国の当時の世相や人間社会に普遍のテーマを感じ取っていただければ……と願っている。
全集各巻の翻訳は、日中翻訳学院の修了生・受講生がそれぞれ担当した。