月刊誌「諸君」の王毅大使に対する暴言・中傷を糾弾する
鄭 青榮
最近、月刊誌「諸君」は、筆者伊藤某の「暴言反日大使の大いなる誤算」なる論文を発表し、王毅大使を非難している。この筆者の長々とした言い分をまとめるとこうである。「王毅大使は知日派だから、日本に理解があるはずだ。中国がこの時期にこれだけのエースを出してきたからには、関係改善が進むだろう。ところが、この和解の使徒は日本のマスコミや政界、外務省などが抱いていた甘い期待を見事に裏切った」と。この筆者はさらに、中国政府は日本に対して無理解であり、それが原因で両国の関係が悪化したと主張し、さらにあろうことか、王大使の最近の一連の「過激な発言」が、両国関係をよりいっそう悪化させたなどと決め付け、非難中傷を加えている。あまつさえ、一国の特命全権大使に対し、人格攻撃も辞さず、破廉恥にも王大使に対し、「暴言反日大使」などという不実のレッテルを貼り、悪罵を浴びせてなに憚らない、という驚くべき、恥ずべき行動に出ている。こうした白を黒と言いくるめる伊藤某の言い草こそ、まさに暴言そのものであり、到底許されるものではない。彼の言い分は、いずれも悪意をもった曲解であり、いわれなき中傷であり、極めて乱暴に問題の本質と責任の所在をすり替えている。
言うまでもなく、王大使の赴任は、日本政府との対話と交渉を通じて、両国の懸案問題の解決を図る努力を行うためであって、「和解」できるかどうかは双方の努力如何にかかっている。王大使を「和解の使徒」と見なすこと自身、極めて身勝手であり、傲慢でさえある。具体的にいうならば、焦点の靖国問題において、日本側が黙して語らない重大な事実をまず明確にする必要がある。それは、かつて中国やアジア諸国の抗議によって靖国参拝を断念した中曽根元首相が1986年に中国政府指導者に宛てた「誓約の書簡」である。この書簡の中で、中曽根元首相は「戦後40年経ったとはいえ、不幸な歴史の傷痕はいまなおアジア近隣諸国民の心中深く残されており、侵略戦争の責任を持つ特定の指導者が祀られている靖国神社に公式参拝することにより貴国をはじめとするアジア近隣諸国の国民感情を傷つけることは避けなければならないと考え、今年は靖国神社の公式参拝を行わないという決断を行った」と真摯に述べている。この書簡の主旨と精神は、その後の日本の歴代内閣によって受け継がれ、守られてきた。それを突如としてひっくり返し、今度の紛争の火種を作ったのは、ほかでもなく日本側であることを忘れてならない。これは「誠実かつ信義を守る」という基本的な国際ルールに著しく違反する重大な過ちだと言わねばならない。日本側はこの中曽根書簡を広く国民に知らせる義務があるにもかかわらず、それを誠実に履行してこなかったばかりか、逆に中国は靖国問題を作り出し、日本の内政に干渉していると世論を惑わし、欺いている。
さきの日本による侵略戦争について、中国やアジアの多くの人々がいまだに「日本は心底から反省してはいない、真摯に謝罪してはいない、戦争被害者に充分な償いをしてはいない」と思っている。その深刻な実態は、最近の韓国政府と人民の対日批判の行動と要求を見ても極めて明白である。ところが、この筆者は「首相の靖国参拝問題が日本の内政問題や文化問題ではなく、国際正義を守るかどうかという外交問題である」との王大使の発言をとらえて、「これは日本に対する攻撃であり、激しい対日非難である」などと見当違いのことを言い、騒ぎ立てている。これはこの筆者がいかに国際正義に不感症であり、国際政治や常識に無知であるかを端的に曝け出しているに過ぎない。もし、ウソだと思うなら、国連へ出かけて世界各国の代表の前で次のようにアピールしてみるがよい。「日本では、悪人も戦争犯罪人も死んでしまえば、みな神、仏として平等に祀られる。したがって、日本国の首相が、戦犯を祀ってある靖国神社に参拝してもなんら問題はないはずなのに、中国や韓国などが日本に対してたえず抗議するのは、内政干渉であり、極めて不当である」と。しかし、もし仮にこのような行動に出たとしたら、日本は大きな外交失態を招き、安保理常任理事国入りどころの騒ぎではなくなるだろう。なぜならば、「日本の常識」が「世界の非常識」であることを自ら満天下に曝け出し、国家の信用を失ってしまうこと必至だからです。この筆者はさらに、王大使が小泉首相に対し、面と向かって靖国参拝問題で中国政府の見解を縷々開陳したことは「外交儀礼を無視した暴挙だ」などと非難しているが、これなども被害妄想的で、笑止千万である。厳粛な国際政治問題を外交儀礼問題にすり替え、矮小化するやり方が通用するわけがどこにあろうか。
この筆者はまた、昨年11月に王大使が李登輝訪日ビザの発給問題で「李登輝はトラブルメーカーだけでなく、戦争メーカーになるかもしれない。」と表明した点をとらえて非難を加えているが、これもまた根拠なき中傷である。この筆者にはそもそも、李登輝という政治人物が見えていないか、見て見ぬふりをしているのである。この筆者と同じ見解の一部の人は、「李登輝は台湾の前の総統だし、引退した老人であり、観光目的で来日するので問題はない」などとさももっともらしいことを言っているが、これなども事実に反する人騙しの言い草にすぎない。李登輝という人物は、現在も依然として台湾独立運動、つまり「中国分裂推進運動」の紛れもない主謀者の一人であり、「台湾国の樹立は北京オリンピック開催の前に実行すべし」とまで公言して人々を扇動し、台湾島内の混乱と台湾海峡の緊張情勢を作り出している。まさしく李はトラブルメーカーであり、東アジアの平和と安定の撹乱要素ではないか!もしも、日本がほんとうに「一つの中国」の政策を守る立場に立つなら、李らの台湾独立運動に加担しないことを実際の行動でもって明確に示すべきである。李に入国ビザを出すことは、日本が国家として李一派に誤ったシグナルを出し、励ますことに等しいことは論を待たない。したがって、王大使が日本に対しビザ発給の再考を促したことは、中日共同声明の主旨と精神に合致した極めて正当な外交行為であり、これを非難する方が可笑しいのである。この筆者は、そもそも、李らを「トラブルメーカー」だと認定し、呼称したのはアメリカ政府であることすら見落としているのである。
言論の自由、出版の自由といっても、そこにはおのずと限度があり、守るべき節度が求められる。文芸春秋の出版する雑誌「諸君」が伊藤某の中傷論文を掲載し、王大使に対して「暴言反日大使」などと中傷し、悪罵を投げつける行為は、到底許されるものではない。
もしも、(株)文芸春秋並びに筆者伊藤某に、少しでも出版社並びにジャーナリストとしての良心と良識があるならば、厳粛に反省し、真摯に謝罪しなければならない。
(2005年4月3日 記)
日本僑報電子週刊 第469号 2005年4月6日(水)発行 より再録