北京滞在中のある日、「四川飯店へ行って」とタクシーの運転手さんに告げたところ、彼は間髪入れずに、「四川料理なら、四川省の駐北京事務所にある餐館が北京じゃ一番であるぞよ!」
と、胡同という北京独特の路地の中にある、立派な門構えとは言いにくい“駐京四川省人民政府辦事処”なる、要するに“北京駐在四川省事務所”の食堂へタクシーを乗り付けてしまったのでした。
物珍しさから、試しに幾皿かの料理を注文してみたところ、おおっ、と驚く本場モノ四川料理のオンパレード。
飾らず、素朴で、ボリュームもお味も、更に安めのお値段設定にも感動。それ以来、北京へ行く度に、各省人民政府の駐京辧事処の餐舘を食べ回ることに相成りました。
「味覚は主観」と申します。
偏食たる我が主観で食べ歩きましたが、これは「普通の北京旅行に飽きた」という方々にお薦めする「北京に居ながらにして中国全土の郷土料理を味わい尽くす」術のガイド本になる、と信じて企画しました。
迷路あり、オリンピックのために立ち退いていたり、“前”と“後”の一字違いで延々と歩かされたり、オリンピックに出場するわけでもないのに、おおいに運動させられました。
この一冊は、冷汗と、棒になった脚で作り出した結晶とでも申せましょうか。
同好の士のみなさまの、お役に立てることを祈ります。
2007年8月8日 森本 まみ子