
立命大学非常勤講師を勤める中野克彦氏が、論文「エスニック・メディアとグローバル・コミュニケーション―中国語エスニック・メディアを中心に」を発表された。(小野善邦編『グローバル・コミュニケーション論―メディア社会の共生・連帯をめざして』2007、世界思想社収録)
中野氏は、世界中で活発化しているエスニック・メディア(移民を主な対象とするメディアであり、とくに移民の母語を用い、生活情報や出身国の情報、政治・経済・社会・文化などのニュースを同胞に伝えるもの)の中でも、グローバル化に伴う移民の急増によって、とりわけ大規模な発展を遂げている中国語エスニック・メディアを通して、今後のエスニック・メディアの将来像を考察するとしている。
氏はまず、「老華僑」と「新華僑」のエスニックメディアの黎明期において、生活に役立つ情報や求人など移民の生存戦略として生活に密着した「相互扶助」メディアが誕生したという共通点を述べている。
次に、変遷として「相互扶助」メディアの中から1990年代に「総合紙」が生まれてきたことを述べ、そして、日本とアメリカの中国語エスニック・メディアの違いを論じている。大陸系の中国語エスニック・メディアが多い日本と異なり、冷戦体制のなかで、共産主義との厳しい対立を経てきた在米中国語メディアは、共産党と対立関係にある国民党系メディアが優勢であり、氏は「台湾系」「香港系」「大陸系」の華僑華人の政治的組織を後ろ盾に、政治イデオロギーを明確にしながら発展してきたアメリカでは、台湾系、香港系のメディアこれまであまりなかった視点ではないだろうか。これは興味深い分析であると言えよう。
小生が特に注目したのは、論文の最終項「中国語エスニック・メディアの模索―新たな可能性を求めて」である。大陸系エスニック・メディアが、中国とは社会環境も言論環境も異なる国々で発行されている点を最大の特徴として、中国語メディアの担い手が移住先社会に溶け込み、その社会の文化、習慣、価値観を受容していく中で、中国とは異なる価値観やイデオロギーを中国メディアに反映させることは十分に考えられるとしている。
『中文導報』の楊文凱氏の言葉を引用し、「私たちのメディアは、中国のメディアではなく、日本のメディアでもない。在日中国人のメディアだ。」両国の事情を了解しているからこそ、相互理解に貢献したい。
『日本僑報』も日中の相互理解を趣旨とし、日本語・中国語のバイリンガル・メディアとして、日本社会に向けて在日中国人の活躍を伝えていることが触れられている。
やや残念なのは、2点。1点目は、総合誌が登場した後、新華僑のメディアは新聞・雑誌媒体に留まらず、インターネットやTV媒体に広まっていることが触れられていないこと。日本の「老華僑」と「新華僑」のエスニック・メディアの黎明期の比較は行われているが、在米メディアに較べて、現在への言及が少ないように見受けられた。紙幅及び「中国語メディア」(日本の老華僑のメディアは日本語で書かれていることが多い)に限定したからこその問題点ではある。
中国語エスニックメディアに関する最新の論である。若手の研究者である中野氏だが、氏の研究者としての将来が期待される。
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