北京に戻ってから、日本メディアの中国に関する報道は、日本経済新聞を除き、つまらなく感じるようになった。ほとんど決まった論調の記事しかないからだ。「中国メディアが日本本来の姿を伝えていない」というのは日本ではよく聞く話だが、日本メディアの中国報道も縛られている気がする。
去年1月末、東京で日中両国の有識者による歴史共同研究委員会は双方の報告書を公表した。注目されていた南京大虐殺による犠牲者数については、中国側は東京裁判の数字を引用し、日本側は学者の推定で表現した。双方とも第3者によるデータを使い、激しい対立を避けた。その取材に当たったある日本大手マスコミのベテラン記者がさすがに新しい動きを敏感に把握し、原稿を書いたが、編集テスクのところで通らなかった。理由は「国民が対立していると思っているから」だという。結局は記事の見出しが「南京虐殺犠牲者一致せず」で、新しい動きがぜんぜん反映されないニュースとなった。「動きとまったく逆となっている」と、「空気」が読めないとされるベテラン記者がため息をつく。
この「空気」や決まった論調を纏めれば、だいたい反日、食の安全、偽物大国、人権侵害、デモ多発、海洋権益をめぐる強硬姿勢などとなっている。限られた紙面、人手で日本メディアがこの「空気」に沿って報道する。刺激された多くの読者が「やはり中国がひどい」と思い、更なる刺激な記事を求める。「日本の対中感情とメディアの中国報道が悪循環となってしまった」と、中国特派員の経験も持つある大手マスコミの論説委員が嘆く。
ここで誤解しないでほしいのは、決して中国への批判記事が嫌いということではない。中国報道に多様性が欠けることが問題なのだ。新しい情報が日本に入ってこないし、病的中国観につながりかねないからだ。一年前、小生のインタビューを受けた経済評論家の堺屋太一氏が、「中国の現代文化が日本にまったく入ってこないような断絶が起こっている」という。
このように感じたのは私だけではない。北京在住のライターの三宅玲子さんが、漁船衝突事件で北京の中国人は政治と人間関係を切り離して付き合う人が多いと感じたことを日本の友人に話したが耳を貸さなかったという。これをきっかけに仲間を集めテレビや新聞ではひろわれない中国人の素顔のストーリーを集積する「BillionBeats」というウェブサイトを立ち上げた。
もう一人北京在住のライターの小林さゆりさんが中国社会を客観的に伝えようと、ブログ「北京メディアウオッチ」でフレッシュな中国情報を発信。日本僑報社の段躍中編集長が創業15年で、『必読!今、中国が面白い2011』など日中関連書籍を200冊以上出版。
だが、彼らの有益的活動はまだまだ日本社会に認識されていない。応援したい。
参考:
北京メディアウオッチ:http://pekin-media.jugem.jp/
Billion Beats:http://www.billion-beats.com/
中国研究書店:http://duan.jp/
段躍中日報(ブログ)http://duan.exblog.jp/