卓上四季
長城遭難十月に夫を探すともう霜が降り 路辺(ろへん)の草は麻綿のように枯れてしまう/十一月に夫を探すと雪がはりつく 綿入れの布団をかぶってもなお寒い―
▼「万里の長城」建設に徴用され、行方知れずになった夫を捜し歩く妻の嘆き。中国各地に残る「孟姜女(もうきょうじょ)伝説」にちなむ民間歌謡の一つという。渡辺明次著「孟姜女口承伝説集」(日本僑報社)にある
▼異説は数多いが、孟姜女は何年もかけて労役の現場にたどり着いたものの、時すでに遅し。涙は流れてやまず、長城の城壁を崩したと伝えられる
▼長城の踏破ツアーで日本人3人が死亡した。愛する人を失った家族や親族、知人の悲しみの深さを思うと胸がつぶれる。ましてや、主催したアミューズトラベル(東京)は、大雪山系トムラウシ山で8人もの命が奪われた登山ツアーを催した会社だ。なぜ、あの惨事の教訓を生かせなかったか
▼かろうじて救助された女性はテレビのマイクに「目の前で順番に亡くなっていく姿が頭に浮かぶ」と語っていた。またしても、寒さに体温を奪われ、命のともしびが次々に吹き消されてしまった。今回は現地の下見もせずに催行したと聞けば、怒りは膨らむばかりだ
▼孟姜女は夫に暖かな服を届けようと、長城を訪ね歩いたともいわれる。ツアーに際し、せめて、参加者に十分な防寒の備えを促していたら…。悔やんでも、悔やみきれない。2012・11・7
※本書の詳細http://duan.jp/item/074.html