今月末から発売される『NHK特派員は見た 中国仰天ボツネタ&㊙ネタ』http://duan.jp/item/174.html のまえがきを転載します。加藤青延さんの処女作、ぜひご期待下さい。以下全文です。
まえがき
「中国ってどんな国?」そう聞かれて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。ユーモラスなパンダでしょうか?それとも北京の象徴、天安門?もしくは、都市全体が煙幕に包まれたようなすさまじい大気汚染でしょうか?あるいは航空母艦まで建造し、強大な軍事力で近くの国との摩擦を引き起こす、こわい国だと感じている方もいるかもしれません。
実は、メディアを通じて伝えられる中国の姿というのは、その時々の、そして、ある場所における真実の断片にすぎません。
確かに、その一つ一つは、正しい事実ではあるのですが、それをすべてつなぎ合わせても、なかなか中国の全体像がつかめないというのが、ニュースの弱点なのです。実は、中国には、まだ日本では知られていない不思議なことが非常にたくさんあります。
例えば、中国には日本の十倍以上、十四億人近くもの人が暮らしています。その大半の人たちは、おそらく日本と直接かかわりがなく、日本のニュースでは取り上げられることがないまま、一生を終えることになるでしょう。実は、そういう中国でごくごく普通に起きている出来事が、日本で伝えられる中国のニュースからは、すっぽりと欠け落ちているのです。
二〇一四年七月、日中両国のジャーナリストが、東京で交流会議を開きました。この会議では、冷え切った日中関係をめぐって様々な問題が提起され、活発な議論が行われました。関係が悪化した原因の一端は、両国のメディアの報道のしかたにあったのではないか。どうすれば両国の国民の相互理解に役立つ報道ができるのか。そういった問題をめぐって、率直な意見が交わされたのです。
この会議での議論こそが、私に、自分の半生をふり返えるきっかけを与えてくれたといえます。ことし還暦を迎えた私は、NHKの記者として中国の取材を始めてから、ちょうど三十年になりました。中国と日本との間を行ったり来たりして、中国関係のニュースや番組の報道に携わってきたのです。
その間、いく度か修羅場も味わいました。政治や経済、さらには社会問題といった、その時々で「報道価値が高い」と判断したニュースを山のように発信してきました。関わった原稿の数は、一万本を優に超えていると思います。
ただ、今振り返って一番心残りなのは、その一万本を超えるニュース原稿でさえも、私が体験した中国のすべては伝えきれなかったことです。むしろ、伝えきれなかったことの方が、ずっと面白かったのではないかとすら感じるようになりました。そうしたニュースの裏話を、何とか一つにまとめてご披露することで、欠けていた部分を少しでも穴埋めできないだろうか、そう思いついて、この本を書くことにしたのです。
中国は目まぐるしくその姿を変えてきました。三十年間にわたってその変化を観察し続けてきた私の一風変わった体験談は、読者のみなさんにとって、ニュースだけでは知りえない、もう一つの中国の姿を理解する上で、何かしらかのヒントになるのではないかと思います。ただ、結構きわどいテーマもありますため、私に協力してくれた関係者にご迷惑がかからないよう、出てくる中国人の大半は、名を伏せるか、仮名にしてありますことをお許しください。