続けて加藤青延さんの「あとがき」を転載致します。
最後までお読みいただき本当にありがとうございます。奇妙きてれつな体験談にビックリ、はたまた、そんなことを取材してどんな意味があったのかと、不思議に思われた方もいらっしゃるかもしれません。ただ、経済面や安全保障の面で、急速に力をつけて様変わりした中国にも、かつてはずいぶん変わった世界があったのだ、ということをお伝えしたくて筆をとりました。
文字をつづりながら、私の脳裏に浮かんだことは、とにかく反省ばかり。三十年前中国取材を始めた当時、中国の人たちが描いていた近代化の目標を、私は、荒唐無稽けいな夢物語にすぎないと軽く考えていたことです。当時の状況から判断して、中国の人たちの構想は、百年かけても実現しないだろうという妙な自信がありました。
ただ、実際に三十年という年月を経て、中国は奇跡的な発展を遂げてしまったという現実を、私は、受け止めなくてはならなくなったのです。もちろん、急速な高度成長によって多くのひずみや矛盾が生み出され、それが今の中国にとって、国を揺るがしかねないほどの大問題になっているという、もう一つの事実も忘れるわけにはいきません。
でも、そのような事実は、私にとっては常識的に十分推量し得た展開でした。三十年間中国を取材してきた私にとって、当然起こり得る常識的な問題、それは当然のことながら大々的に日本に向けて報道してきたと考えています。しかし、そうした常識的な問題のほかに、常識では考えられないような、想像を絶する変化が現に起きてきたという事実に直面にすると、ただ、感嘆するばかり。そしてそのような変化は、これからも起こり得ると考えるのが自然でしょう。
かくいう私も、「現在の中国をどう見るか」と問われれば、相変わらず常識の範囲で考え、常識の範囲で語る以外になかなか良い方法を見出せません。ただ、私がまだ存命であればの話ですが、将来三十年後に、今を振り返えった時に、あの時どうして気づかなかったのだろうかという反省を、きっと繰り返すことになるのではないか、という予感がしています。
二十数年ほど前、私は、米国の著名な調査会社から非公開の中国レポートを見せてもらったことがあります。その会社は、かつて米国政府の依頼で湾岸戦争がもたらす米国への経済的影響を開戦前に事前調査した実績がありました。今思えばその調査会社は、レポートの中で中国の経済発展の方向を、かなり正確に予測していました。中国の経済規模が、二十一世紀前半に日本や米国を上回ることまで予想していたのです。しかし、当時日本国内では、中国経済の将来に悲観的な見方の方が優勢でした。私も、米国の調査レポートを見て、「楽観的すぎる予測だ」とタカをくくって読み過ごしてしまったのです。
こうした苦い経験から申し上げるなら、中国を考える時に、何より欠かせないのが「複眼的な観察」と「柔軟な思考」です。一方的な見方で「これはこうだ」と決めつける前に、他の角度から見たらどうなるか、九十九パーセントあり得ないシナリオだと考えても、一パーセントの可能性についても、その実現性を考えてみる必要がありそうです。
むしろ、これから起こり得る予測シナリオをあらゆる角度から科学的な仮説として何通りも描いてみて、どのパターンに当てはまってくるかを見極めるという作業の方が、うまくゆくのではないかと考えるようになりました。
中国がこれから三十年、どんな国に生まれ変わるのか、読者の皆様も、奇想天外な発想の中から考えてみていただけると面白いかもしれません。そして、そのような奇抜な発想のヒントとして、本書に記した過去三十年間の仰天するような中国の歩みが、わずかばかりでもお役に立つのであれば、何よりの幸いです。
最後に、本書をまとめるにあたって、数々のご支援とアドバイスをいただいた日本僑報社の段景子社長と段躍中編集長に感謝したいと思います。また、私との対談に快く応じてくださった言論NPOの工藤泰志代表にも心から御礼申し上げます。
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