日本僑報社は4月27日、第17回「華人学術賞」の受賞作品を、中国社会科学院の江秋鳳博士による「現代中国における農民出稼ぎと社会構造変動に関する研究」に決定したことを明らかにした。受賞論文は今年6月、日本僑報社より出版される予定。
副題は、「農民出稼ぎ者・留守家族・帰郷者の生活と社会意識に関する実態調査をふまえて」。江秋鳳博士が、神戸大学大学院の人間発達環境学研究科で博士号(学術)を取得した際の、独自性にあふれた優れた研究論文だ(指導教官・浅野慎一教授)。
本研究は、現代中国における「農民出稼ぎ労働」の社会的意義について、出稼ぎ者本人・留守家族・帰郷者それぞれの生活と意識の実態をふまえて、深く分析・考察したもの。
中国の経済発展に伴い、各地で都市化が進んでいる。これにより出稼ぎ農民人口が急速に増え、その就職や福祉・教育・医療などの面が大きな社会問題となっている。
この研究論文では、北京の出稼ぎ農民本人と、山東省鄆城(うんじょう)県の留守家族、そして帰郷者を対象として、徹底したインテンシブ(集中的)な実態調査や対象者が確保できる「機縁法」という方法などにより、農民出稼ぎ労働の社会的意義について実証的に調査研究。
「中国の社会構造そのものの矛盾を認識」しながらも、「自らと次世代の生活の向上・発展をたゆまず求め続け」るという、出稼ぎ農民たちの前向きな意識を明らかにした。さらに農村社会の変貌、都市化社会の変動、階層格差の拡大、家族関係と社会関係の変容など、出稼ぎ農民をめぐる社会構造の全体的な変動を、トータルに解き明かした。
指導教官の浅野教授は、推薦の言葉として「本書は、百数十人におよぶ出稼ぎ農民とその家族が語ってくれたことの中に、あるいは語り尽くせぬことの中に、現代中国の巨大な歴史的社会変動を貫通する明確な内在論理を多数、発見した」と強調。
その「最大の特徴は、徹底した実態調査に基づく生活過程分析という研究法にある」としたうえで、「1940年代以降、日本の社会学が脈々と鍛えあげてきた学問的方法論が、世紀をまたぎ、国境を越え、激変する現代中国社会の研究に発展的に応用され、貴重な学術成果を結実させるありさまを目の当たりにするのは、社会学徒として大きな喜びである。あわせて学問の、そしてマルクス主義がもつインタナショナリズム・普遍主義の勁さを改めて実感するものである」と本書の研究成果を高く評価する。
江秋鳳博士は、1980年、中国山東省鄆城県生まれ。2001年、魯東大学日本語学科卒業。山東省龍口第三中学校徐福日中交流学校で日本語教師として勤めたのち、2003年4月より日本に留学。2005年3月、大阪産業大学経済学部卒業。2012年3月、神戸大学大学院人間発達環境学研究科で博士号(学術)取得。現在は、中国社会科学院「都市発展と環境研究所」にポストドクターとして勤めている。
華人学術賞は、2002年の中日国交正常化30周年を記念し、日本僑報社が創設した。中国人博士の学術成果を日本社会に広く紹介することを目的としており、この13年間で今回を含め17人の中国人博士が受賞した。
詳細http://duan.jp/item/c11.html
書誌データ
『現代中国における農民出稼ぎと社会構造変動に関する研究』
著者:江秋鳳
出版:日本僑報社
判型:A5判220頁上製
予価:6800円+税
発行:2015年7月17日
ISBN:978-4-86185-170-0 C0036
詳細:http://duan.jp/item/170.html