静岡文化芸術大学馬成三教授の新著『2010年の中国経済』(大久保勲氏共著)は、、蒼々社より刊行されました。ここに氏の執筆した「あとがき」を転載させて頂きます。詳しい内容は発行元の
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日中の政治関係がぎくしゃくしている中、経済関係は史上最高の緊密度を示している。二〇〇四年、香港経由を含む日中貿易総額は、日米貿易を抜き、中国が日本の最大の貿易パートナーに浮上し、日本企業の対中投資も新たなブームを示している。
筆者が中国駐日大使館勤務で最初に日本の地を踏んだ一九七八年の日中貿易総額五〇億ドルは、二〇〇五年なら一〇日間で達成できる。一九八〇年代半ばに日中経済関係の「懸案」であった、中国の対日貿易赤字や日本企業の対中投資の「消極的姿勢」は雲散霧消してしまった。
バブル崩壊を受け、「失われた一〇年」に遭遇した日本経済は、二〇〇一年からようやく外需依存型の景気回復を見せたが、これを支えた最大の要因は対中輸出の急拡大にほかならない。一九九〇年代末になお日本に「中国巨大市場幻想論」が流行っていたことを思い出すと、中国のことを予測する困難さを痛感させられる。
数年前まで、中国進出日本企業の「苦闘」や「経営赤字」を喧伝する論調は少なくなかったが、日中投資促進機構の「第八次日系企業アンケート調査」(二〇〇四年一〇~一二月実施)によると、対中進出日系企業のうち、黒字企業(売上高経常利益率ベース)の比率は一九九八年の六七%から二〇〇三年の九〇%へと増大し、高収益化が進んでいる。
二〇〇四年春、北京や上海など中国の大都市で「反日デモ」が起こったことを契機に、対中投資「慎重論」が台頭しているようにみえる中、大手企業を中心に日本企業は依然として中国での事業拡大に強い意欲を持っていることが、複数の調査に示されている。例えば、日本経済新聞社が同年九月下旬から一〇月中旬にかけて日本主要製造業一六〇社を対象にアンケート調査した結果、「三年後の海外生産を増やす」とした企業は八七%、対象地域・国として中国を挙げた企業は八五%にも達し、インドやブラジル、ロシアを挙げた比率(インドは三%未満、ブラジルとロシアは一%)を遥かに上回っている。
この傾向からみれば、対中投資を含む日本企業の対中ビジネスは今後も拡大していくものと予想される。一方、中国市場を巡る競争の激化、元高に伴うコスト増大、「民工荒」に示された労働力供給の変化、長江デルタや珠江デルタなど沿海部の電力不足、市場経済化の進展に絡む外資優遇政策の調整などで対中ビジネスのリスクも増大している。
中国経済、特に対中ビジネスに関心を持つ読者が、リスクを含む対中ビジネス問題を考えるに際して、本書がお役に立てれば幸甚である。(略)
馬成三
二〇〇五年一一月記す