日本政府による「尖閣諸島の基本見解」とは、尖閣諸島は「日本固有の領土」であり、それは歴史的にも国際法上も疑いようがなく、「現にわが国はこれを有効に支配して」いる。そのため「尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在してい」ない(外務省ホームページ)とするものである。
これを見れば、日本政府が1895年に尖閣諸島を編入する閣議決定を行って以来、約120年間一貫してその主張に変わりはないと、ふつうの人は考えがちだ。だからこそ、中国や台湾の領有権の主張に対しては「石油が出そうになってからの後出しジャンケンだ」という見方が「定説」になっているのである。
しかし著者によると、国際法上の「先占」など、尖閣諸島の領有論拠と歴史的経緯に関する日本政府の「物語」が完成したのは1972年になってから。しかも、そこから約20年さかのぼる1950年代半ばには、政府当局者が「尖閣諸島」の島名すら認識していなかったことなどが、国会会議録の検証によって明らかにされている。
本書は、国会答弁の膨大な記録にあたり、それらを細かく検証することで、尖閣諸島をめぐる「疑問」や「誤解」を1つずつ解いていく。日本にとって不利となる事実であっても、国会会議録からすっかり消し去ることはできない。「まずは事実を認識し、それを踏まえて冷静に議論することで、日中信頼関係の再構築を」と著者は語る。