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対中外交の蹉跌 片山和之著 現役外交官が検証する戦前
2017/10/28付
駐上海総領事をつとめている現役の外交官が、戦前の日本の対中外交を検証したユニークな一冊だ。松岡洋右や重光葵ら、上海を舞台に活躍した外交官がたくさん登場する。
回想録などを通じて浮かび上がる人物像はそれぞれに個性的で、興味深い。と同時に、外務省の主流が基本的に中国と平和的な関係を築こうとしていたことが、浮かび上がる。
その外務省が中国大陸での軍の暴走を押しとどめることができなかったのは、外務省より軍の方が豊富な中国情報を蓄積していたのが一因、とする分析はうなずける。
外務省が内外の世論の支持を十分に獲得できなかったとの指摘は、これからを考えるうえでも大切な視点だろう。
上海の歴史に関するうんちくは楽しい読み物となっている。実業家の豊田佐吉、ジャーナリストの尾崎秀実と松本重治、日中の知識人が集う書店を経営した内山完造らの足跡から、かつての日本と上海のつながりの深さがうかがえる。
今後の日中関係についての分析と主張は具体的な問題に踏み込まない総論的なものにとどまり、物足りなく感じるかもしれない。ただ、著者の立場からはやむを得ないところだろう。より広く外交への関心を呼び起こそうとする姿勢を評価したい。(日本僑報社・3600円)