今週の本棚・新刊・毎日新聞2019年8月25日 東京朝刊
『中国政治経済史論 トウ小平時代』=胡鞍鋼・著、日中翻訳学院本書翻訳チーム・訳 (日本僑報社・1万9440円)
トウ小平の改革開放が、現代中国の基盤をつくった。この世界史的な出来事を、中国経済の第一人者が豊富なデータを駆使して論じ切る。
著者は一九五三年生まれ。農村にやられて苦労し、独学で大学入試に合格。経済学を学んでアメリカに留学し、帰国後は清華大学で政策科学を講じている。本書は前著『毛沢東時代』に続く第二巻。清華大学での人気講義が元になっている。翻訳で七○○頁(ページ)を超える大作だ。
本書で印象的なのは、改革開放を決めた十一期三中全会から「八九」政治動乱(天安門事件のこと)に至る約一○年間の中国経済の軌跡を、党の文献や基本データを駆使して描き切っていること。次著に予定される『江沢民時代』と三冊で、現代中国を理解するための必読文献だ。
本書は個々の指導者にも、踏み込んだコメントを加える。華国鋒は誠実で率直。趙紫陽は彼に及ばない。八六年の学生運動を前に、胡耀邦は政治的に未熟だった。趙紫陽は八九年、判断を誤り事態を悪化させた。のように、敏感な問題も多いので、中国語版は書店で入手できない。図書館はぜひ本書を揃(そろ)えて、日本の読者に提供してもらいたい。(橋)