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日本僑報電子週刊 第566号 2006年6月28日(水)発行
http://duan.jp 編集発行:段躍中(duan@duan.jp)
■段躍中日報 http://duan.exblog.jp/■
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★杉本信行氏の著書『大地の咆哮』刊行特集★
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編者より一言
日本国際問題研究所の主任研究員を務めている杉本信行元上海総領事の
初めての単著『大地の咆哮―元上海総領事が見た中国』がPHP研究所から
刊行されました。これまで任務を果たされて帰国した多くの中国大使や
総領事の中で、帰国後二年足らずで著書を出した方というのは、私の知
る限りでは初めてではないかと思います。
著書を執筆されたきっかけは、著者本人の末期ガンが発見されたためだ
ったそうです。辛い闘病生活の中、このような日中両国の関係改善・相
互理解に大変良い、素晴らしい著書を執筆された著者を尊敬します。
杉本氏は本書の中で、恐れることなく、言いたいことを思ったまま書い
ていると感じました。幸か不幸か、杉本氏が元気に総領事を務めていら
っしゃるうちは、このような本は刊行できなかったかもしれません。も
し書いてくださったとしても、ここまで率直にホンネで表現できないの
ではないでしょうか。30年以上の思い、30年間のさまざまな体験を
綴ったこのような著書は本当に貴重だと思います。両国の指導者をはじ
め、一般の方々にもぜひ読んで欲しいです。本書は現在の日中関係を助
ける一冊と言っていいほどすばらしい本だと思います。まだ3分の一く
らいしか読んでいませんが、大変勉強になりました。
なお、この本の発行日は「7月7日」と書いてありますが、既に書店に
並んでいます。ぜひみなさん、お手にとってみてください。
----段躍中 2006.6.28午前9時(珍しく水曜日午前に少し時間が取れ
たので、まず杉本氏の著書に関する特集を配信し、午後と夜にはもう一
つ特集と【正刊】を配信する予定です。)
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■目次■
内容紹介
まえがき
本書の目次
あとがき
著者略歴
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内容紹介
中国はどこへ行くのか。約30年間、中国外交の第一線で活躍した元上海
総領事が、知られざる大国の実態と問題点を詳細に分析した書。
解説
2004年5月、在上海日本総領事館の館員が、中国側公安当局者による恫喝
と脅迫に苦しめられ、自殺の道を選んだ事件は、日本人に大きな衝撃を
与えた。そのときの総領事が著者である。
同年秋、一時帰国した著者は、自らの体に病巣があることを知る。医師
から告げられた最終診断は末期がんであった。抗がん剤による激しい副
作用と闘いながら、日本と中国の未来を見据えて書いたのが本書である。
「解説文」を執筆した岡本行夫氏(国際問題アドバイザー)はこう語る。
「この本は現在の中国を分析するものとして世界中で書かれた多くの著
作のうちでも屈指のものだと思う」「現役の外交官が、病気と闘う中で、
自分の経験と考えを、脚色や誤魔化しなしに、そのまま我々に伝える決
心をした」
著者はいう。「中国認識で大切なことは、机上の理論を排した現実に即
して中国を理解することだ」と。その言葉どおり、日本人が知らない中
国の実態を明らかにした大著。
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まえがき
二〇〇四年春、上海の日本総領事館で、一人の館員が、このままでは
国を売らない限り出国できなくなるとの遺書を残して死んだ。私は、そ
のときの総領事であった。
上司として、館長として、彼を守れなかったことへの無念さはいまも
変わることがない。
この事件に遭い、また、私が外交官として長年関わってきた中国との
交渉体験を通して、「現代中国をどう認識し、どう対応するのか、日本
の対中外交はどうあるべきか」について述べることが、私の役割であり、
今後の日中関係、対アジア外交に何らかの役に立つのではないかとの思
いに至り、本書に取り組んだ次第である。
私は外務省ではいわゆる「チャイナスクール」(中国語の語学研修を
受け、中国関係の仕事に多く携わる外務官僚)に属している。もっとも、
私自身はそのような囲いの中にとらわれているという意識はまったくな
い。あくまで日本国の外交官として、日本の国益を第一に、地域の平和
と安全、繁栄のため、行動してきたと自負している。
外務省入省以来三十三年。語学研修時代を含め、これまで合計十四年
近くを中国で勤務してきた。その中で、中国の光と陰、可能性とリスク
など、この国の持つ多面性と多様性に、たびたび驚かされてきた。私の
中国観は、外務省の地道な情報の積み重ねと分析のうえに、現地での政
治・経済両面の実体験を加えて形成されたものだ。
中国認識で大切なことは、各種データによって観念的に中国を観るこ
とではなく、できるだけ机上の理論を排した現実に即して、中国を理解
することだと考える。なかでも、中国共産党が支配する「中華人民共和
国中国」の現体制と「中国人一般」を同一視しないことが肝要だと考え
ている。中国の政治体制、支配層だけを見ていては中国のことはわから
ない。政治体制の観察は非常に重要だが、支配層だけでなく、十三億の
民、とりわけ、いまだに封建時代のような身分制度を押しつけられてい
る九億以上の農民の現状を直視することが大切である。
文化大革命末期の体験を含む長年の中国勤務を通じ、正直「中国に生
まれなくてよかった」と思うこともあった。中国では一般人、ましてや
農民からある程度の地位に這い上がることは至難のワザである。また、
一定の地位についても、「密告社会」「監視社会」の中で生き延びるた
めには、上司、同僚、友人、知人から「刺されない」ことが必要で、と
きには友のみならず、親兄弟までも密告しなければ生きていけない時代
があり、いまもそうした面は完全になくなっているとはいえない。
私は、本書の中でしばしば「中華人民共和国中国」に対して辛口な意
見を述べている。しかし、それは決して「中国人一般」に対する非難で
はない。「このままでいいはずがない」という率直な思いからである。
日中双方の人々が互いの状況を正しく認識することは、両国の国益につ
ながると思うからである。
また、中国共産党の一党支配による中華人民共和国の体制は外部から
は揺るぎないものに見えるかもしれない。長期的かつ壮大な世界戦略の
もとに着々と覇権戦略を進めていると考えている人も少なくない。確か
に一部にはそうした傾向があるが、中国共産党指導部内部では自信のな
さや悩み、不安、将来への悲観が渦巻いている。共産党による支配体制
がいつまでも続くと思っている党幹部はむしろ少数派だとすらいえる。
たとえば、「太子党」といわれる革命元老の子弟グループの間でささ
やかれている小噺がある。文化大革命で迫害を受けて身体障害者となっ
たとう小平の子息、とう樸方が、文革が終息した後、父親に「やっと入
党の準備ができた」といって共産党への入党申請書を見せたところ、父
親、すなわちとう小平が、「お前は何ということを言い出すのだ。お前
が共産党に入党すれば、とう家はいずれ根絶やしになってしまう」とい
って止めたという話である。この小噺の真偽のほどは明らかではない。
しかし、このことは共産党最高幹部でさえ、中国共産党の将来に自信を
持っていないことを物語る一つのエピソードといえよう。
また、中国の革命第二世代、第三世代の党指導者たちの子弟たちの多
くは海外留学に出ているが、将来、中華人民共和国のために働くという
より、共産党の支配体制が崩れた場合に備えているといったほうが正し
いのではないだろうか。海外留学生たちの多くが中国に帰らず、そのま
ま留学先にとどまり、そこでの永住権を得る例が多いことがそれを物語
っているともいえる。
戦後、中国共産党との内戦に敗れ台湾に亡命し、台湾人を長年支配し
た中国国民党幹部の子弟の多くが海外へ留学したのも、国民党の支配が
崩れたときの避難先を確保しておくという狙いがあったことは、台湾在
任中によく聞いた話である。
このように、中国共産党による支配体制が磐石のものであるという認
識は必ずしも正しくないし、そうした認識からのみ対中戦略を考えるこ
とは一面的に過ぎる。中国指導部の中にある覇権主義的な傾向には常に
警戒が必要だが、同時に、中国の体制の脆弱性、不安定さについても、
実情と実態を把握しておく必要がある。すべてを硬直的な固定観念だけ
で中国を見ていては間違うということだ。
中国の指導部が現在頭を悩ませている最大の懸念は、対外政策という
より国内政策である。なかでも「三農問題」といわれる農村の貧困、農
民の苦難、農業の不振などに対する懸念は想像以上に大きく、すでに中
国社会、中国の政治体制を揺るがしかねないほど深刻化している。中国
の農村の実態、農民に対する差別や収奪ぶりを見れば、あまりのひどさ
に言葉を失うほどだ。都市部の発展に比例して、農民の不満、共産党政
府に対する怒りは高まっている。中国の農民にとっては、中国共産党政
権の正当性、および正統性はすでに失われているといっても過言ではな
い。
中国に対する脅威論が高まり、中国の覇権主義に対する警戒論が強ま
っている。警戒は怠ってはならないが、中国が攻撃的ともいえる対外政
策を進めるのは、国内の不安定さゆえという面がある。中国共産党政権
の正当性、および正統性を維持するためには、対外強硬路線を取る以外
にない、といった脅迫観念にとらわれているようにも見える。あるいは、
かつて最も栄えていたころの中国王朝の版図を取り戻すことが、中国共
産党政権の正統性を維持するために不可欠と思っているようでもある。
しかし、そのようなやり方でなければ共産党政権の正当性、および正統
性を維持できないと、現代の中国人がいつまでも考えるとも思えない。
中国の対外強硬政策の背後には、本文の中で詳述するが、「義和団コ
ンプレックス」と呼べる感情があることも忘れてはならない。「義和団
コンプレックス」とは、偉大な国・中国がいまも外国によって侮られて
いるという感情である。
中国人一般の気質についても、日本では一面的な見方が多すぎるよう
に思う。中国人は倫理観に欠け、平気で人を騙す、というようなもので
ある。中国では経済関係の仕事が多かった私は、中国に進出した企業か
らさまざまな不満、不平の訴えを聞いた。中国人を心から信頼していた
のに裏切られ、中国に投資した資産を根こそぎ持っていかれてしまった、
といったトラブルだ。
しかし、一方で、いったん相手を信用すると、日本では信じられない
ほどの信頼を寄せてくる中国人がいることもまた事実である。ある知人
は、相手方の中国人が自分をあまりにも信用するので怖いほどだと話し
ていた。借金を申し入れたところ、担保もとらずに巨額の資金を貸して
くれたうえ、返済は出世払いでよいといったという。
これをどう解釈するか。人を騙すのが当たり前の中国人社会だからこ
そ、信用できる人間を見る目が肥えていると考えるか。あるいは、中国
人の「宗族」(同じ姓の同族)を中心に結束を固める意識に通じるのか。
つまり、いったん「宗族」のような身内同様と判断すれば、全幅の信頼
を寄せてしまうのか。ともあれ、これほどまでの信頼は日本人にとって
は息苦しいと思われるのだが、これもまた中国人の一面である。
中国は日本にとって、時としてやっかいな隣国である。しかし、だか
らといって日本は引っ越すわけにはいかない。中国が日本にとって好ま
しい存在になるように全力を尽くすのが外交の要諦だと考える。少なく
とも中国の失政のつけが日本に回ってこないよう賢明に立ち回ることが
大事だ。
中国をどう認識すべきか。それは、中国の歴史とともに、中国社会の
現状を知ることから始めなければならない。本書を私の外務省入省後の
中国体験に沿って書き進めているのはそのためである。おつきあい願い
たい。
本書をまとめようと考えた個人的動機については「あとがき」に記し
た。なお、本書はあくまで私の個人的見解であり、信念である。異論、
反論も少なくないと思われるが、中国認識や対中外交の議論に一石を投
じることができれば幸いである。
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大地の咆哮(ほうこう)★目次
解 説――岡本行夫
まえがき
第一章 中国との出会い 24
一、北京研修時代 24
予想外だった「中国語研修」の辞令/北京の夜は真っ暗闇だった
最初に覚えた中国語は「没有(メイヨウ)」
謎の中国人ルームメイトの正体/「おまえの思想は間違っている」
「二十キロ制限」で行動の自由も奪われる
二、瀋陽研修時代 37
外国人租界地のような環境/「私の名前はゴロウです」
交通渋滞を引き起こした十二段変速自転車
外国人コンプレックスと厳格な監視社会
すべての行動が記録に取られていた/文革の十年がもたらした人材の空白
文革を知る人たちの醒めた視線/崩壊する単位社会主義
第二章 安全保障への目覚め(中国課時代) 54
一、日本赤軍ハイジャック事件 54
二、尖閣諸島問題 56
領海侵犯を繰り返した中国漁船二百隻/反覇権条項にこだわったとう小平
条約慎重派が突きつけた二つの条件
強硬な反対派のコントロール下にあった漁船
三、日中平和友好条約締結交渉 64
事務レベル協議の会談内容をすべて筆記
ハードルを高めた自民党の条約慎重派/訪日に同行したとう小平の娘
日本を改革・開放政策のモデルに/尖閣諸島の領有権を主張する根拠
第三章 対中経済協力開始 77
ソ連後遺症に苦しむ中国/円借款のスタート
中国の遅れを率直に認めた小平/中国を西側陣営に取り込むための戦略
援助はどのように変化したか
第四章 日中友好の最高峰(第一回目の在中国大使館勤務) 88
急速に強まった日中友好ムード/最高の親日派だった胡耀邦
「鶴の一声」で日本人学校が誕生/胡錦濤の「靖国神社シンドローム」
第五章 ココムと対中技術規制(ココム日本政府代表時代) 96
アメリカが東芝機械事件に激怒した理由
国家安全保障に鈍感な日本企業/天安門事件後の中国を救った日本
第六章 台湾人の悲哀(台湾勤務時代) 102
一、台湾の特殊性 102
近代化に猛烈な投資を行った日本/「犬が去って豚が来た」
台湾の歴史認識に欠ける大陸の中国人
中国の大義と国際スタンダードの衝突
二、大阪APEC非公式首脳会談への代表出席問題 110
野党・民進党との積極的な交流/外省人に牛耳られていた台湾外交部
候補の名前が漏れてしまう/極秘会談における松永特使の手腕
三、交流協会の仕事 122
元日本兵への未払い給与問題/査証の不正発給現場を押さえる
四、平和な台湾の現状を維持せよ 126
第七章 対中ODAに物申す(二度目の在中国大使館勤務) 129
江蘇省母子保健センター開所式での非礼
対外経済貿易部に委ねられていた優先順位
「拒否権発動」中心の日本/北京国際空港の広告塔をめぐる攻防
円借款に対する中国指導者の認識/北京の怪しげなカラオケ店
地元の人たちに大歓迎された「草の根無償資金協力」
田舎の小学校を建て直すことの意義
「草の根無償資金協力」を通して対中発言力強化を
対中ODAの歴史を無にするな
第八章 対中進出企業支援(上海総領事時代) 159
日本企業の開所式に出席する基準
大使館に持ち込まれるさまざまな苦情
長江デルタ地域が発展する理由/年々変化する「チャイナリスク」
さまざまなローカルルール/上海商工会の認可問題
第九章 深刻な水不足問題 177
世界でも有数の「貧水国」/河床の上昇が続く黄河の危うさ
地下水の過剰取水による地盤沈下/繰り広げられる「水」の争奪戦
南水北調と三峡ダムの行方/国民の意識を高めることが必要
深刻化する砂漠化とわが国の協力/水利部の局長宛てに送ったレポート
第十章 搾取される農民 199
農村でポリオのワクチンが二割不足する理由
農民を「外地人」と呼ぶ露骨な差別意識/先富論の悲劇
土地を奪われ難民化する農民/実質三十倍に拡大する都市と農村の格差
理不尽な制度外費用の徴収/義務教育でも大きな差別
深刻な高齢化とエイズ/役人天国と二重権力構造
第十一章 反日運動の背景 222
すべては共産党の正当性、正統性維持のために
「プロレタリア独裁」を放棄した江沢民/社会各層の負け組に募る不満
深刻化する一方の失業と年金問題/「負け組人民解放軍兵士」の恨み
不満のはけ口として反日暴動を黙認する政府/「撃ち方始め」と「撃ち方止め」
二〇〇五年反日デモの真相/反日デモの裏にある権力闘争
第十二章 靖国神社参拝問題 241
中国政府が抱える火種/胡錦濤政権が靖国問題にこだわる理由
なぜ靖国を参拝するのか/「国の面子を捨てる国」と受け取られるな
A級戦犯の取り扱い/靖国参拝問題の解決私案
第十三章 中国経済の構造上の問題 259
富の再分配が機能せずに生まれた三重格差
金を貸すバカ、返すバカ/実質失業率は不明
投資と消費のアンバランス/産業構造と資源・エネルギーのアンバランス
なぜ不動産バブルとなったのか/底なしの不良債権問題
第十四章 転換期の軍事政策 282
なぜ核兵器開発に躍起になったか/懸念されるシビリアンコントロール
情けは人のためならず
第十五章 嗚呼、在上海総領事館 291
申請の一割を却下する査証セクション
上海で毎年三十人以上の日本人が亡くなる理由
邦人保護のさまざまな苦労/マスコミは悪いケースだけを報道しがち
高層ビルが林立する上海の弱点/不動産バブルを破裂させる時限爆弾
第十六章 中国の農村にCNNを(中国共産党と宗教) 307
振幅の激しい共産党の宗教政策
中南海の要人をパニックに陥れた法輪功事件
外国人による布教や伝道活動を禁止する/増え続けるカトリック教徒
外国の目が中国を救うという論理/シュリーマンが中国で見つけたもの
付録-1 日中を隔てる五つの誤解と対処法 322
個人の歴史認識を問い質されることも/日本と中国の対立点
「参拝目的」を説明すべき/日本はこれまで二十回以上も謝罪
村山首相の謝罪/ODAで中国に貢献
「南京大虐殺」の記述/かつてはカツオブシ工場も
付録-2 日本と中国:「過去」をめぐる摩擦七つのポイント 338
一、中国での反日教育の背景
二、日中間の戦後処理はどのように行われたのか
三、「過去の問題」についての日本の基本的な立場
四、日本は中国に対していつ、どのような機会に謝罪したか(代表例のみ)
五、過去の問題に関する日本とドイツの対応の比較
六、中国が日本国総理の靖国神社参拝に反対する理由は
七、日本は「過去」をどのように教えているか
参考文献
あとがき
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あとがき
上海で同僚を失ったその年の秋、一時帰国中に、思いがけず自らの体
に病巣が発見された。
一刻の猶予もならないということで、東京で治療を受ける手はずを整
えた。公館長の中でも多忙を極める上海総領事のポストを長期間空ける
わけにはいかないと判断した私は、外務省の官房長に後任人事を願い出
た。
急ぎ上海に戻った後も、引き上げ作業、残務整理に実質十日間の余裕
しかなく、お世話になった各界関係者の皆様に、十分なお礼の挨拶もで
きないまま、任地を後にせざるを得なかった。
〇四年十一月、帰国と同時に入院した際に医師から告げられた最終診
断は末期がん。「手術も放射線治療も間に合いません。化学治療で全身
に広がった癌細胞を叩く方法しかありません」ということだった。
癌に関する本を読み漁ったが、なんら楽観できる情報はない。家族の
将来がひたすら案じられた。限られた命をどう有効に使うか、時間との
勝負となった。
化学治療の副作用は半端なものではなく、体力が消耗し、第一線で働
いていたときとは状況が一変した。しかし治療に専念した分、時間的余
裕もできた。これまで雑務に追われて十分フォローできなかった文献・
資料を読んだり、見舞いに訪れてくれる中国の友人や専門家とより深い
意見交換をすることもできるようになった。
その中で、これだけ相互依存関係を深め、いまやアジアのみならず世
界の安定的な発展に不可欠となった日中関係において、五年間も首脳同
士の対話が中断するという異常な状態が続いていることに対し、改めて
非常に強い違和感を覚えた。病床に伏せながらも、職業柄、日本国際問
題研究所に毎日届く膨大な情報の閲覧も中国関係を優先し、チャイナウ
ォッチを断つことはなかった。これまでの経験をもとに、現在の日中関
係に何か貢献したいという思いが強くなり、周囲の勧めがきっかけとな
って本書を書くことを決意した。それがまた、今日まで自らを奮い立た
せる活力となっていたことも確かだ。同じように、それぞれの目標に向
かい、日々「生きる」ために戦っている闘病中の戦友の励みになればと
も願っている。
抗がん剤の副作用で頭が朦朧とするなか、薬で痛みを抑えながらパソ
コンに向かい、家族、友人、同僚の激励に後押しされながら何とか書き
上げることができた。助けて下さった皆様に、この場を借りてお礼を述
べたい。とりわけPHP研究所第一出版局の安藤卓局長、Voice編
集部の中澤直樹副編集長の両氏には大変お世話になった。文章をまとめ
るにあたり、加藤鉱氏の協力を得た。加藤氏の助力がなければ本書は日
の目を見なかったであろう。
最後に、本書を、上海で自らの命を絶った同僚の冥福を祈るために奉
げる。また、奇跡を信じて完治を祈ってくれている家族、両親、兄弟に
感謝の気持ちを込めて贈りたい。
二〇〇六年五月
杉本信行
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日中関係・華僑華人情報専門誌・毎週水曜日発行 編集発行:段躍中
1998年8月創刊・無断転載禁止。
著作権は日本僑報社またはその情報提供者に帰属します。
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