撫順の奇蹟を受け継ぐ会声明
過去を直視せずに「未来志向」はありえない
1.相手の声に耳を傾けよ
現在、日本と中国の関係は、国交正常化以来、もっとも大きな試練に立たされています。
中国における、いわゆる「反日」デモや不買運動は、中国において民衆レベルで拡がり深まる対日不信の一部にすぎません。同時に、日本においても中国への違和感を感じる市民が増えています。
こうした状況のなか、今月23日にジャカルタで行なわれた日中首脳会談は、冷え込んだ両国の関係を改善していくうえで、重要な意味を持つはずのものでした。
しかし、報道などによると、小泉首相は会談の冒頭、「過去の非をあげつらうのではなく、未来に向かって友好関係を発展させることが大切だ」と述べたと伝えられています。
このように自らの過去の過ちを直視しようとしない姿勢、相手の抗議に正面から向かい合おうとしない姿勢こそ、被害者側の抗議を引き起こしている最大の原因だと私たちは考えます。
2.「村山談話」を免罪符として利用するな
首脳会談に先立って小泉首相はバンドン会議で演説し、「村山談話」を引用しつつ、「植民地支配と侵略によってとりわけアジア諸国の人々に対して多大な損害と苦痛を与えた」ことについて、「痛切なる反省と心からのおわびの気持ち」を表明しました。
問題は、小泉首相を始めとする日本の指導的政治家たちが、その「反省とお詫びの気持ち」を実際の行動で示してこなかったところにあります。小泉首相がバンドンでそのように演説したその日、彼の閣僚である麻生総務大臣と80人の国会議員が靖国神社に参拝し、首相の言葉を、まさに行動で裏切っています。これでは、どのような美しい言葉も決して信用されず、たちまち嘘になってしまいます。
「村山談話」は日本政府の免罪符として使われてきましたが、当の村山元首相も、「談話を引用して反省とおわびの姿勢を示すのなら、靖国参拝はただちにやめるべきだ」と指摘しています。
批判を受けたときには一定の「反省」の言葉を発しはするけれども、すぐにまた無反省な行動を繰り返す日本の為政者達は、アジア諸国をはじめとする世界各国から強い不信感を持たれています。韓国政府は最近、「いったい日本は東北アジア平和勢力として隣国と共存しようという意思があるのだろうかという根本的な疑念を抱かせる」とまで慨嘆しています。
過去の過ちへの「反省」を口先だけのものに終わらせてはいけません。靖国参拝の中止や戦後補償への誠実な対応など、実際の行動で表すことがなければ、「未来志向」もありえません。
3.侵略戦争を美化する「つくる会」教科書
私たちは、両国間の不信と猜疑の増幅を画策し、煽っている一部の人間がいることを指摘せざるをえません。彼らは、過去、日本が犯してしまった過ちを認めることができないばかりか、戦争そのものを正当化・美化しています。
その典型が「新しい歴史教科書をつくる会」です。彼らは、アジア太平洋戦争が日本によるアジア解放の戦争であったかのように記述し、植民地支配や南京大虐殺、従軍慰安婦などの私たちが胸に刻んでおかなければならない歴史的事実を隠しています。この極右的な教科書を文科省が検定で通過させたことが、今回の日本への抗議行動の大きなきっかけの一つとなっています。いま中国などで起きている抗議運動は「反日」行動ではなく、「反・新しい歴史教科書をつくる会」行動であり、「反・靖国参拝」行動だと認識するべきでしょう。
この間のすべての問題の根本に、過去の戦争をいかに見るべきかという歴史認識の問題が横たわっています。
敗戦から60年が経過し、日本では戦争の記憶が「風化」してきているようです。しかし、中国をはじめとするアジアの被害諸国のひとびとの、日本の侵略戦争による被害の記憶は、絶対に「風化」などするものではなく、世代を越えて現在の若い世代にも引き継がれています。韓国や中国の若い世代のそのような気持ちを理解し、アジア諸国に与えた加害への真摯な反省に基づいた歴史認識なくしては、日本はこれからアジアで生きていくことはできません。
私たちは、日本のすべての地域でこのような教科書を採択せず、前回の採択にひきつづいてゼロ採択に終わらせるよう、多くの心ある人々に呼びかけます。
4.日中両国の友好のために
私たちは、謝罪するべきは謝罪するという人間として当然のモラルをこの社会に確立していくために努力します。
それと同時に、中国で日本への抗議運動を行なっている人々に、抗議運動にあたっては理性的に行動するよう呼びかけます。多くの日本人が、過去の過ちを認めるべきだと考えると同時に、抗議デモのなかで日本の外交施設などへ暴力的な行動があったことを強く遺憾に思っています。
1950年、撫順戦犯管理所に勾留された1000人の日本人戦犯たちは、中国の人道的で思いやりのある待遇のなかで人間的良心を取り戻し、今日まで半世紀にわたって反戦平和・日中友好の道を歩んできました。この歴史的な経験は日中両国が共同で生み出した財産です。
私たちはこれら元戦犯たちの精神を受け継ぎ、誠意ある対話と交流のなかで、日中友好の未来を築いていく決意です。
撫順の奇蹟を受け継ぐ会