●「外国人の人権を考える、筆者の実体験」
劉穎(リュウエイ)翻訳者/中国語講師/フリーライター(滋賀在住)
9月1日の夕方、会社の中国語講習を終えて、急いで帰宅して夕食を作っている最中に電話のベルが鳴りました。小学校一年生の次男が塾帰りに交通事故に遭ったという加害者女性からの連絡でした。
現場は家から走って五分の駅前通り、必死に駆け付けた時、足と頬に怪我をし、青ざめた顔で涙を拭いながら震えている我が子を見て、とにかく心配で早く病院へ連れて行きたいと思いました。
でも警察の取調べは延々と続き、その間、子供の怪我の状況や事故の経緯、今後のことなど、保護者に何の説明とアドバイスもなく、一生懸命不安な気持ちを押さえ、事故に怯え、足を引きずる次男を支えながら、現場検証に協力していました。
それが一時間立っても終わらないので、せめて早く近くの病院へ連れて行き、脳などに異常がないか先生に診てもらいたいから、警察官に「子供の怪我が心配で、病院へ連れて行きたい。急なことで、走ってきたから、車と携帯がないので助けてください!」とお願いをしました。しかし、警察官は「今事故現場の業務があるので、被害者を運ぶ義務はない」と冷たく言われます。
その時、怒りと悲しみがこみ上げてきて、「警察官4人、パトカー2台、加害者と被害者と目撃者が揃った状況、何故最始から救急車を呼んで下さらないのか?取調べは後でもできるのに、何故被害者の怪我よりも自分たちの仕事を優先にするのか?警察官は困る人を助けるためにいるじゃないですか?」と抗議しました。
そこで一人の警察官がもの凄い剣幕で「何を言うでるの?この子は別に眼玉や内臓が飛び出してないでしょう!腕も足もちぎれてないでしょう!あんたみたいな外国人はみたことない」と大勢の人の前で私に怒鳴りつけました。他の警察官は横からまあまあといって、その時初めて救急車を呼んで、その場を離れました。
国民の安全と権利を守るべき警察官、どんな時も冷静沈着を保つべき警察官からの暴言、かなり精神的ショックを受けました。しかも、私たちは加害者ではなく、被疑者でもない。非難される筋合いのない被害者が、何故このような苦痛耐えなければならないのか?おかしいではないか?どうしても納得ができず、後日電話で再度抗議し、もし改めなければ、県警や市、マスコミに公表する意思を伝えました。
交通課の責任者は、今回の件について、未成年被害者の家族に十分な説明を行わなかった落ち度を認め、現場警察官の問題発言について謝ってくださいました。その警察官本人から直接言葉を頂きたいというのが私の希望でしたけど、後日連絡する約束をして、電話を切りました。
しかし、その後1ヶ月が立っても連絡がないので、再度問い合わせたところ、全く別の警察官が対応、また最初から事情を説明しなければならず、部署が違う等の理由を述べられ、「発言内容が確かに問題なので、本人に厳しく注意する」と約束し、この件は一旦終わりました。
でも、何故当事者の名前を何回聞いても教えてもらえず、直接本人から言葉を頂けないのか?「厳しく注意する」という約束、ちゃんと伝わっているのか?警察官同士で庇っていないのか?信じていいのか?と、納得できない曖昧な部分はまだまだあります。
確かに精神的苦痛を受けたけれど、告発で一人の警官を追い詰めるつもりはなく、「痛みは痛みで返す」つもりもなかった。私の望みは、ただ一つ!プロの警察官として、あってはならないことを反省して頂き、今後同じような問題発言を繰り返さないで欲しい!それだけです。でも目に見えない壁と権威がとても厚く、大きかったように感じました。
すっきりしないまま、今回の事は終わった形になりましたが、「外国人のくせに、警察に文句を言うな」という言葉はずっと心に残ります。いつも学習者に「中国語を習うのは、旅行や趣味のためだけではなく、異なる価値観を知り、国際感覚を養って、在日外国人を理解する立場になれる、なにかあれば助けて上げてください」と言っていますが、実際差別を受けて、この屈辱はどんなに辛いものか身を
もって分かった以上、やはり仕事に生かすしかない。根強い差別、間違った体質に負けない、自分たちの権利を主張する難しさも、大切さも実感しました。今後も固定観念を持たず、日本の良い所も悪い所もよく見て伝えていくつもりです。
劉さんの頁→http://www.kjps.net/user/liuying/