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日本僑報電子週刊 第596号 2006年11月8日(水)発行
http://duan.jp 編集発行:段躍中(duan@duan.jp)
■段躍中日報 http://duan.exblog.jp/■
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★李大同氏の著書『「氷点」は読者とともに』刊行特集★
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編者の一言 『「氷点」は読者とともに』は中国国内の国営出版社廣西
師範大学より2005年11月に刊行された《氷点故事》の和訳版です。
今年の五月に、北京に帰ったとき、西単にある図書大厦で同書を数冊購
入したことがあり、いまも販売されていると聞きました。李大同さんが
日本語版に寄せてくださった序文は、ことの8月に書いたものです。是
非ご高覧の上本書を読んでください。http://duan.jp/item/040.html
■目次■
はじめに(日本語版序文)/李大同
本書の目次
訳者のあとがき
著者の略歴
監訳者の略歴
訳者の略歴
書誌データと注文先http://duan.jp/item/040.html
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はじめに(日本語版序文)/李大同
二〇〇六年三月初、私は思いがけなく中国人民大学の日本人留学生、久
保井真愛さんから電子メールを受け取った。メールには「『氷点』は読
者とともに」を読み、感動して何度も涙を流したこと、そこで「『氷点』
は読者とともに」を日本語に訳し、日本の読者に紹介したいことが書か
れていた。「『氷点』は読者とともに」は二〇〇五年十一月に出版され
た後、中国の知識界とメディアから「二〇〇五年度グッドブック」に選
ばれ、私は多くの中国人読者による論評を目にしていたが、外国の読者
が中国語で読後感を書いてきたのは初めてのことであり、非常に感動し、
彼女の要請を快諾した。
「『氷点』は読者とともに」で述べられているのは、中国の普通の人々
の上に起こった普通ではない物語である。ひとつひとつの物語が一ペー
ジを使ってディテールまで描き出されているので、中国の読者は創刊後
すぐ『氷点』が好きになった。その理由は「リアルさ」、つまり報道が
歴史的転換期にある中国人民の運命と彼らの喜怒哀楽をリアルに映し出
しているからである。多くの読者が手紙で、報道の中に「自分の姿を見
た」と言っていた。一般のニュース報道と異なるのは、『氷点』の記事
が読者の強い要望によって単行本にまとめられた点であり、このような
本は全部で五冊刊行された。興味深いのは、当時は報道を読んでなかっ
た多くの人が、一、二年後に本を読み終えてから手紙や電子メールで感
想を送ってくれ、これら報道が「時代遅れ」とは感じていないことであ
る。ところが、ジャーナリストの古典的な信条とは「ニュースには一日
の生命力しかない」なのである。
それでは、どのような要素が、ニュースにより長い生命力を与えてくれ、
ニュースをある意味における「歴史」にしてくれるのだろうか。真実の
細部にわたる再現、報道対象の運命の活写、普通の人びとの考えや感情
への尊重、社会が順調に営みつづける基本的価値観の堅持、これらがニ
ュースにより長い生命力を与えるのである。このような歴史的記録は、
自国の人民に有益なだけでなく、諸国人民の相互理解を促す重要なルー
トでもある。もし「『氷点』は読者とともに」日本語版により、日本の
読者の皆さんが今の中国をより理解していただけるなら、まさに望外の
喜びである。久保井真愛さんの読後感が、私にその可能性を見せてくれ
た。諸国人民間の共通点は、相違点を遥かに超えるだろうと、私は信じ
ている。
最近『戦争――血と涙で綴った証言』の中国語版を読み終えたばかりだ。
一九八六年七月、『朝日新聞』は第二次世界大戦を経験した日本人の手
紙を掲載し始め、一年あまりで一一〇〇通が発表され、すぐに書籍化さ
れた。これは日本の庶民が書いた戦争史であり、これまで読んだ歴史学
者や作家によって書かれた戦争に関する如何なる描写とも全く異なる理
解を得ることができた。それらの著書では大統領、首相、将軍などの「
大物」が主役であり、戦場や外交での権謀術数は詳細に記録されている
が、戦争の被害を被害者である人民(一般兵士も含む)の運命は疎かに
されている。ところが本書はほとんどが庶民の体験であり、戦時下の庶
民の運命がクローズアップされている。これによって私が会得できた日
本の人びとや日本文化、日本史の複雑さは極めて新鮮であり、『菊と刀
』のような概念の堆積ではなくなった。
もしかすると、これは日本メディアの「氷点」といえるかもしれない。
その特徴とは、庶民一人一人の運命が多くの読者の注目対象となったこ
とである。彼らはかつて、恐らくはこれからも「沈黙する大多数」であ
るが、この民衆こそが一国の政治や経済、文化発展の基礎であることは
誰も否定できないし、彼らがどのように生きており、どのように生きた
いのかということは軽視されるべきではないし、特にメディアから軽視
されるべきではない。遺憾なことに、メディアで「大物」の言動は常に
無限にまで拡大されているが、「小物」は常に無名であり、両者の喜怒
哀楽には往々にして天と地ほどの差がある。
もし、中日両国のメディア関係者が、相手の報道から人民の生きざまと
リアルな思想や感情を見てとることができるなら、国民間の相互理解は
大きく増進され、簡単に騙され惑わされることはなくなり、世界の平和
的発展も更に保障されるだろう。
私は中国のジャーナリストとして、その為の努力を惜しまない。「『氷
点』は読者とともに」日本語版の刊行にあたり以上を書き残綴って、日
本の同業者および読者とともに努力したい。
拙著日本語版の出版者である日本僑報社と段躍中先生、訳者の久保井真
愛さんと監訳の武吉次朗先生が、刊行のため心血を注がれたことに深く
お礼申し上げる。
二〇〇六年八月十八日
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本書の目次
はじめに(日本語版序文)
第一章 再び表舞台に
一、雪解け
二、「重大」なテーマとは何か?
三、お嬢さん曰く「私が肥桶を書くわ!」
四、子供の命名以上の難しさ
五、「こんな記事が読みたかった!」
第二章 認められて
一、時を経ても変わらぬもの
二、七回の書き直し
三、電車の車掌たち
第三章 しだいに成熟
一、読者からの手紙
二、おじさん、おばさん
三、安楽死の実話
第四章 体験型報道
一、お手伝いさんとピアニスト
二、私が出会った日本兵
三、白い困惑
四、引っ越し
第五章 庶民の生きざま
一、農村の子供に希望を
二、山奥で鳴り響く金の鐘
三、中華民族の心の河
第六章 新たな試み
一、転載が引き起こしたセンセーション
第七章 危機にある教育
一、児童にも人格が
二、ツバメが飛ぶ先は
第八章 「小氷点」の誕生
一、「得体が知れない」のに大ヒット
二、オリジナルが欲しいのです
第九章 「抗議」に見舞われた停刊
一、陽光の下での取引
二、悪夢の強制送還
三、国民すべて納税者
第十章 「性」の突破
一、最大の難関
二、性別のあがき
三、最も勇気ある人
第十一章 特別報道
一、地方の大物は「報道不可」
二、どこにいるの、お母さん
第十二章 「軟」から「硬」へ
一、世紀末の真っ赤な嘘
二、嘘の裏の顔
三、何度もさし戻された死刑判決
四、一審判決を支持するのは誰?
五、証拠のない告発
六、笑うに笑えぬ「敗訴」
中国語版あとがき
訳者あとがき
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訳者あとがき
本書『氷点は読者とともに』は、二〇〇五年十一月に中国で出版(中国
版タイトルは『氷点故事』)されました。本書では、過去十年間の中国
民衆の実際の生活や考え、変化に富んだ人生及び彼らの奮闘ぶりと闘い
ぶりが描かれています(李大同氏談)。
中国共産主義青年団(共青団)機関紙、『中国青年報』の特集『氷点』
は、一見すると所謂「ニュースバリュー」を持ち合わせていないような
「庶民の物語」に注目し続け、 党や政府の「代弁者」である中国のメ
ディアにおいて、他とは一線を画する存在であり、人びとの心を揺さぶ
り、読者とともに歩み続ける特集として高い評価を得ています。
ところが、二〇〇六年一月、論文「近代化と歴史教科書問題」を掲載し
たために『氷点』は中国当局による突然の停刊処分を受け、当時の主幹
編集長であり、約十一年前に自らの手で『氷点』を創刊した李大同氏は
更迭されます。
更迭された李氏は事件直後にネット上に異例の『抗議文』を掲載、海外
メディアを中心に大きく報道されます。国内外からの世論が引き金とな
り、「近代化と歴史教科書問題」を真っ向から否定する論文を掲載する
事を条件に、停刊から約一カ月後の三月一日に異例の早さで復刊を果た
しています。
停刊事件については、今年六月に日本僑報社から発売された「『氷点』
停刊の舞台裏――問われる中国の言論の自由――」の中で詳しく述べら
れています。
更迭から半年あまり経った現在、李大同氏は執筆活動のほか、自身が運
営するブログで『氷点事件』時の抗議文を公開しているほか、大陸では
発売禁止となり近く香港で発売されることになる自身にとって(大陸で
は)二冊目となる著書の購入方法を指南するなど、精力的な活動を続け
ています。
本書の日本語版を刊行したいと李大同氏に相談したときの事、李氏から
「本書の中国語版では、国内政治の制約によって非常に重要な内容の一
部分を削除されています。もし日本で出版されるのであれば、これら削
除された個所を復元していただきたい」という条件が出されました。
李氏の言う「国内政治の制約によって」とは、「トラブルが起こる」こ
とを恐れた出版社が原稿の一部に手を加えたということを示しており、
本書の中国語版では、一部が別の言葉に置き換えられ、または、完全に
削除されています。
例えば、本書一九五頁の
本紙に関する黄潔夫のいかなる発言もすべてデマであると伝えた。第三
医院の職員はさらに、黄と衛生相の張文康とは密接な関係があり、彼が
こんなに「怖いもんなし」でいられるのは、「お上にバックがいる」か
らだ、と言っていた。これは当然ながらあり得る話だ。
という一文は中国版ではきれいさっぱり削除されていますし、
二〇〇二年、顔光美は中山医科大学の校長に就任、黄潔夫は広東を離れ
て北京で衛生部の副部長になった。今回の「裁判」では誰が勝ったと、
読者のみなさんは判断されるであろうか。
という部分も原文ではただ
二〇〇二年、黄潔夫は転任し、顔光美は中山医科大学の校長を務めるこ
とになった。
とあるだけです。また、二〇四頁の
奴隷売買のような事が二一世紀で起こってしまうとは。それは政府によ
る行為であり、「法にのっとり国を治める」と謳っている中国で起こっ
ているとは。私にはまるで信じることができない。
という部分についても、原文では「政府による行為であり」という一文
は削除され、二〇六頁の
「少なからぬ市民は、自分は納税者ではないと本気で思っているのであ
る」に続くはずだった
「やや深刻な言い方をすれば、これは政府が人民を騙しているというこ
とだ」
という一文は、原文では読むことができません。
出版社の「自主規制」によって削除された個所をみるだけでも、中国国
内ではどのような言葉や、表現が「敏感」もしくは「タブー」であるか
が読み取れるのではないでしょうか。
また、こういった部分を日本版ではぜひとも復元してほしいと願う李大
同氏のジャーナリスト魂をかいま見る事もできると思います。
最後に、出版の機会を与えてくださった日本僑報社の段躍中先生と監訳
を引き受けてくださった武吉次朗先生、翻訳チェックを快く承諾して下
さったレイさんに心から感謝を申し上げます。また、山口秀和さん、久
保井健二さんの叱咤激励がなければ本書を完成させることはできません
でした。この場を借りて感謝を申し上げます。本当にありがとうござい
ました。
二〇〇六年六月 北京にて
久保井真愛
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訳者略歴
著者略歴 李 大同(り だいどう) 1952年、中国四川省南充に生
まれる。1954年、両親とともに北京へ。1968年、「知識青年」として内
モンゴル草原の人民公社生産隊に下放。1979年7月、中国青年報社に入
社。その後、駐内モンゴル自治区記者、本社特別記者、編集者、編集主
任などを歴任。1989年、首都マスコミ関係者1000名と中央指導者との対
話活動の発起人となり、職を追われる。1995年、『氷点週刊』創刊。20
06年1月に起きた『氷点』停刊事件によって編集主幹を免職となる。和
訳版著書に『「氷点」停刊の舞台裏』(日本僑報社、2006年6月)。
監訳者略歴 武吉 次朗(たけよし じろう) 1932年生まれ。1958
年、中国から帰国。日本国際貿易促進協会事務局勤務。1980年、同協会
常務理事。1990年、摂南大学国際言語文化学部教授。2003年退職。主な
著書:『現代中国30章』(共著、大修館書店、2004)など。主な訳書:
『大破産 中国の国有企業改革』(東方書店)、『新中国に貢献した日
本人たち』(日本僑報社、2003)、『中国の歴史教科書問題――『氷点
』事件の記録と反省』(日本僑報社、2006)など。
訳者略歴 久保井 真愛(くぼい・まや) 1979年、福岡生まれ。20
04年から中国政府の奨学金を得て、中国ジャーナリズム教育の最高峰、
中国人民大学新聞学部新聞学科修士課程に在籍中。現在三面記事から
「報道禁止」ニュースまで、「今」の中国が見えてくるメールマガジン
「女子大学院生まやの中国社会ニュース」を配信中。
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◆書誌データと注文先◆
書名 『氷点』は読者とともに―いま明かす苦闘の歳月―
http://duan.jp/item/040.html
著者 李 大同
監訳 武吉次朗
訳者 久保井真愛
発行 日本僑報社
判型 A5判330頁 並製
定価 2600円+税
発売 2006.11.28
注文 171-0021東京都豊島区西池袋3-17-15日本僑報社
TEL 03-5956-2808 FAX 03-5956-2809
インターネット注文先 http://duan.jp/item/040.html
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