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日本僑報電子週刊 第602号 2006年12月06日(水)発行
http://duan.jp 編集発行:段躍中(duan@duan.jp)
■段躍中日報 http://duan.exblog.jp/■
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★王文亮著『格差で読み解く現代中国』刊行特集★
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編者より 在日華人学者王文亮教授は、二つ博士学位を持っていて、多
数の学術著作を刊行してきた。日本僑報社からも以下の三冊を出版した。
特に、『中国観光業詳説』は、500頁を超えた大著で、学界をはじめ
観光業界からも高く評価されている。今回氏の新著が発行されたことで、
特集で紹介致します。
■目次■
まえがき/金城大学教授 王文亮
目次
著者略歴
ほかの著書の注文先
『21世紀に向ける中国の社会保障』http://duan.jp/item/21.html
『中国観光業詳説』http://duan.jp/item/27.html
『中国のWTO加盟と国際観光業』http://duan.jp/item/30.html
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王文亮著『格差で読み解く現代中国』
ミネルヴァ書房2006年11月10日
■まえがき■
巨大さ、奥深さ、複雑さなどに加えて、日々変化する姿、それらを有す
る現代中国を捉えるには、単線的な見方はもうほとんど役立たなくなり、
複眼的で様々な視点や角度から出発してダイナミックに見つめていくこと
こそが必要不可欠です。そこで、「格差」という視座にしっかり立脚して
現代中国の社会政策、社会制度および社会現実を読み解こうとするのが、
本書の最大の狙いです。
「格差」というのは、いうまでもなく結果的なものだけではありませ
ん。出発点としての格差、さらにプロセスとしての格差と実にいろいろと
あるわけです。現代中国はまさにこのような格差に満ち溢れている国で、
我々はいたるところでそれに遭遇するはずです。所得の格差、貧富の格
差、教育の格差、社会保障の格差、価値観の格差、ライフスタイルの格差
などなど、歴史的に形成したものもあれば、国と政府が意図的に選択した
社会政策そのものもあります。
近年、胡錦濤政権は中国の格差社会を解消して、「科学的発展観」に基
づく「調和のとれた社会」を実現するために、発展モデルの方向転換を図
りつつ、一連の社会政策を打ち出してきています。それは一体どのような
効果が期待できるのか、果たして格差社会の驀進に歯止めをかけることが
できるのか、今のところ、その先行きがまったく見えてきません。
本書では、格差の視座から現代中国を解明するという目標を実現するた
めに、合わせて13章を立てています。その内容は広範で多岐にわたって
おり、具体的にいうと、都市と農村の二重構造、農村、農業、農民のい
わゆる「三農」問題、貧困撲滅をめぐる苦しい戦い、計画出産の是非、
人口高齢化の課題と対応、公的年金制度、医療保障、失業保障、最低生
活保障、教育のあり方、職業観の変遷、官僚の職権乱用と腐敗汚職の氾
濫、余暇・レジャーなどとなります。いずれも現在中国の社会政策、社
会制度および社会現実において最も重要な部分に関わるものであるた
め、それに対する実態解明および構造分析は、現代中国の全体像や真の
姿を把握するのに役立つと思われます。
現在大学などの場合、半期15回の講義で1つの授業科目を完結させるの
がごく一般的です。1回目はガイダンスやオリエンテーション、最終回
は総合復習またはテストという展開となれば、本書をテキストに使う
と、ちょうど13回の講義に対応しており、また構成上、各章は内容的に
互いに独立しているため、比較的使いやすいという点においては多少自
信があります。
もちろん、本書は大学のテキストとしてのみ書いたわけではなく、現代
中国の様々な側面を知るための一般書として読むことができるような配慮
もしています。具体的には、単純明快な言葉遣い、論理的な分析展開、証
拠重視の結論づけなどはもちろんのこと、なるべく図解、グラフ、統計表
を作成、活用して、社会政策の意図、社会制度の仕組み、社会現実の進行
状況をリアルに紹介、解説しています。さらには現在中国の庶民生活と社
会現実などを捉えた写真をふんだんに使い、観察対象の一端を覗く窓口や
鏡としてその役割を期待してもよいでしょう。
最後に断っておきたいのは、今の中国はまさしく「日進月歩」という言
葉が象徴するように、非常に速いスピードで目まぐるしく変化していま
す。一体、社会政策が社会現実をリードしているか、それとも社会現実が
社会政策を突き動かしているというべきなのか、もう誰も分からない状況
になってしまったわけです。一方、その変動の軌跡を追いかけることは社
会科学研究者の使命である以上、できる限り至近の動向まで正確に把握す
べく、最新の情報を入手し、分析の素材にする必要があります。しかし、
これは実に大変難しい仕事でもあります。時間の流れには、人間の力は勝
てません。本書は、脱稿直前までの中国の政策動向などを懸命に取り入れ
たつもりではありますが、出版中に一部のデータはもうすでに古くなって
いる可能性が十分あります。この点は、読者の皆さんに寛大な容赦を願う
ほかありません。
本書の上梓にあたっては、ミネルヴァ書房の関係者の皆さんに大変お世
話になりました。深く御礼申し上げます。
2006年1月
著 者
■目 次■
まえがき
第1章 多様な「顔」を持つ現代中国
1 「格差」は最重要キーワード
(1)対象理解の難しさ
(2)1つの国 3つの世界
2 モータリゼーションの衝撃
(1)自転車王国から自動車大国へ
(2)公用車の氾濫
(3)車社会の到来
(4)自家用車保有率の格差
(5)交通渋滞の悪夢
(6) “交通戦争”の勃発
3 被国際援助と国際援助
(1)発展途上国の有人宇宙飛行
(2)日本の対中国ODA
(3)中国への広範な国際援助
(4)国際援助国としての中国
第2章 都市と農村の二重構造
1 都市化と工業化の乖離
(1)二重構造とは
(2)都市化率の推移
(3)乖離の継続
2 戸籍制度の現在と未来
(1)国民の分断装置
(2)不平等の維持拡大
3 身分制度と農民の社会的地位
(1)「二等国民」
(2)出稼ぎ労働の経済的意義
(3)出稼ぎ労働者の賃金不払い問題
4 戸籍制度撤廃の必要条件
(1)農村住民の都市志向
(2)戸籍改革に伴う新たな不平等
(3)二重戸籍撤廃の日
第3章 近代化推進中の農村・農業・農民問題
1 「三農」問題の由来と展開
(1)毛沢東時代の「三大差別」
(2) 改革開放後の新展開
(3)「三農」問題の本質
2 「三農」問題解決への取り組み
(1)近年の政策動向
(2)税・負担金の制度改革
(3)農業補助金の交付
3 農業補助金制度の評価
(1)農家収入増の視点から
(2)補助金のゆくえ
4 「三農」問題の解決と農村社会保障
(1)「三農」問題の複雑性
(2)社会保障の二重構造
(3)農村社会保障と国の責任問題
第4章 貧困に立ち向かう政府と国民
1 貧困撲滅の歩みと成果
(1)政策的取り組み
(2)貧困撲滅の成果
(3)過剰評価の傾向
(4)貧困撲滅資金の流用
2 所得格差の拡大に伴う新たな課題
(1) 貧困人口の減少ペースダウン
(2)拡大する所得格差
(3)拡大する消費支出格差
3 「小康」社会の実現を目指して
(1) 生活向上の戦略的目標
(2)目標の達成度
第5章 計画出産を中心とする家族政策
1 180度の方向転換
(1)全体主義的政策選択
(2)柔軟な政策運営
2 計画出産の法制化
(1)「人口・計画出産法」
(2)罰金から社会養育費の徴収へ
(3)法制定に伴う課題
3 性別比率に生ずる大異変
(1)人工操作による男児数の急増
(2)性別産み分けの禁止
4 計画出産家族の老後保障
(1)子供頼りの老後生活
(2)年間600元の補助金
第6章 発展途上国中国の人口高齢化
1 中国の人口高齢化の特徴
(1)高齢化の進展と要因
(2)高齢化の特徴
2 農村地域の人口高齢化
(1)若年労働者の流出
(2)農村人口高齢化の課題
3 家族倫理の崩壊と再建
(1)親孝行の家族倫理
(2)深刻な高齢者権利侵害
(3)処罰と奨励
4 家族のあり方と高齢者扶養
(1)家族構造の激変
(2)扶養意欲の減退
(3)公権力の介入
第7章 高齢者扶養の形態と年金制度
1 混合型の高齢者扶養
(1)混合型とは
(2)家族の経済的援助
(3)家族の身体的介護
2 都市部の公的年金
(1)従来の制度とその改革
(2)改革後の統一制度
3 農村部の公的年金
(1)スタートの経緯
(2)制度の仕組み
(3)制度の停滞と崩壊
(4)原因分析
(5)今後の方向
第8章 国民の健康を守る医療保障
1 医療制度の二重構造
(1)健康状態の格差
(2)不公平な資源配分
2 都市部の医療制度改革
(1)従来の医療制度
(2)医療制度改革
(3)医療費の高騰
3 新型農村合作医療制度
(1)従来の合作医療
(2)制度の崩壊
(3)新型農村合作医療制度の登場
(4)新制度の仕組み
(5)新制度の運営状況
第9章 都市労働者の雇用と失業保障
1 社会主義イデオロギーと失業問題
(1)失業とは
(2)「下崗人員」とは
2 国有企業型雇用システムの崩壊
(1)従来制度の特徴
(2)見直しの必要
(3)一時帰休者の基本生活保障
3 失業手当給付の仕組み
(1)失業保険の導入
(2)失業保険の機能
4 一時帰休から失業への統合
(1)困難な再就職
(2)新型肺炎以降の失業状況
(3)再就職のための取り組み
第10章 セーフティネットとしての最低生活保障
1 社会救済から最低生活保障へ
(1)社会救済制度
(2)都市住民最低生活保障制度の登場
2 都市部の急速な整備
(1)財源の統一
(2)制度の仕組み
(3)急速な拡大
3 農村部の立ち遅れ
(1)制度の始動
(2)制度の広がり
(3)制度の課題
第11章 エリート養成指向の教育システム
1 中国も熾烈な超学歴社会
(1)学歴の価値
(2)英才教育の実態
2 義務教育における国民の権利平等
(1)義務教育の成果
(2)不公平な教育財政
(3)政府の新たな対応
3 教育産業化の現状と課題
(1)大学教育費用の高騰
(2)失学危機の対応策
4 大学教育の急速な規模拡大
(1)進学率から見たダンベル型構造
(2)農村教育の低い水準
(3)大学教育の拡大戦略
(4)大学生のエリート集団化
第12章 大量消費時代の金銭感覚
1 謎に包まれる収入構造
(1)本給よりも多い「灰色収入」
(2)第二職業の一般化
2 変わりゆく職業観
(1)国有企業の人気度
(2)大きく変容する仕事観
(3)大転職時代の到来
3 巨万の富を築き上げた資産階級
(1)私営企業家
(2)中間所得層
(3)資本家の共産党入党
4 「官僚天国」の腐敗汚職
(1)公務員の給料アップ
(2)官僚たちの腐敗汚職
(3)永遠不尽の戦い
第13章 中国人の大旅行時代
1 世界観光機関の予測
(1)目標とハードル
(2)北京オリンピックと上海万博
2 大型連休と国内旅行の旋風
(1)好調な船出
(2)余暇の増加
(3)「休日経済」の繁栄
(4)サービスの低下と政府の対応
3 熱い視線を集める中国人の海外旅行
(1)大潮の始動
(2)規制緩和
4 中国人の訪日団体旅行
(1)歓迎と警戒中の解禁
(2)料金低廉化の実現
(3)魅力的なプランの企画
(4)政治関係と観光交流
本書関連データの出典一覧
■著者紹介■
王 文亮(おう・ぶんりょう)
1963年 中国江西省広豊県農村部生まれ。
中山大学大学院哲学研究科修士課程を修了。
大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程を修了、博士(文学)。
長崎純心大学より論文博士号(学術・福祉)授与。
中国社会科学院、九州看護福祉大学を経て、
現 在 金城学院大学現代文化学部福祉社会学科教授
主 著 『中国聖人論』(中国社会科学出版社、1993年)
『聖人与日中文化』(全3巻、社会科学文献出版社、1999年)
『21世紀に向ける中国の社会保障』(日本僑報社、2001年)
『中国の高齢者社会保障』(白帝社、2001年)
『中国観光業詳説』(日本僑報社、2001年)
『中国農民はなぜ貧しいのか』(光文社、2003年)
『九億農民の福祉』(中国書店、2004年)など多数。