
辻康吾先生※が7月、8月と連続して、『中国共産党史の論争点』『中華人民笑話国―中国人、中国人を笑う』をご出版されました。おめでとうございます。
※(元毎日新聞北京支局長、海大学教授、獨協大学教授を歴任。現在は、中華食文化研究センター代表として、研究および著述活動)
1冊目の『中国共産党史の論争点』(岩波書店)は、韓鋼氏著、辻康吾先生編訳で、中国共産党史の様々な論争点を多角的に分析した一冊です。歴史が政治と深く関わる中国で、タブーを恐れず「官方歴史学」に挑戦されたこの本は、党史研究の新時代を切り開く書として、広く注目されることでしょう。
この意義深い本が日本で出版されることになったのは、辻先生の真摯な研究への情熱のたまものです。著者の韓鋼氏が冒頭で述べていらっしゃいますが、辻先生の研究姿勢が真剣かつ厳格であったことに感動したとのことです。翻訳上の細部に渡って、全ての問題について面談するか、メールで議論を交わした上、日本語版読者のために、事件、人物、述語などすべてに注釈をつけられたとのこと。読者にとって有益な本であり、推薦したいと存じます。
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辻先生は時をおかず、『中華人民笑話国―中国人、中国人を笑う』(小学館)も刊行されています。こちらは党史とうってかわって、ジョーク集です。「地震ニモ負ケズ、チベット問題ニモ負ケズ、環境破壊ニモ北京五輪ヘノ反発ニモ負ケズ。」思わず、今笑った読者もいらっしゃるのではないでしょうか。
本書の目的は、中国人自身による中国に関する100以上のジョークで、おもしろおかしく中国を理解しようというものです。国民性、政治・経済、文化などのカテゴリーに各ジョークを分類し、中国人のホンネがあぶり出されます。
他国で他国を笑う、エスニック・ジョークではなく、中国人が自らを客観視した結果を紹介し、未来永劫つき合っていかなければならない隣人を理解するための入り口、案内役として刊行されました。
五章の『「対日感情は悪い」は本当か』から、ジョークを一つ紹介したいと思います。
■日本人のせい
数人の韓国人と中国人がこんな話をしていた。
「我々は、何かというとすぐ日本人のせいにしてしまう」
「うむ、その通りだ。いったいなぜなんだろう」
答えが出ないまま、彼らはしばらく話し合った。
そして次の瞬間、全員が同時に叫んだ。
「日本人のせいだ!」
このジョークの解説は、次のように続きます。
『中国人は反日であるというが、私は個人的には中国人の対日感情はいいと思っている。…
中国では公開の場でおおっぴらに日本はすばらしいとは言いにくいことは事実である。最近の日本で、中国はすばらしいという人が少ないとのと同じである。…問題は、反日感情を「活用」する人がいることだ。
…古い世代は日本と戦った経験から恨みも憎みもするが、一方で日本人もいろいろだということを経験的に知っている。日中の古い世代には、それなりの連帯感があったものである。しかし、今の若い、反日教育を受けて育っている世代は、知らないまま単細胞的な日本嫌いになっているだけのことだ。…つまり、中国の普通の人はたいした反日感情はもっていないと考えるべきなのだ。…それにもかかわらず、最近になって中国も韓国も政府がそれを政治的カードにしたからまずいことになっているのだ。』
ジョークにニヤリと笑いながら、辻先生のお書きになられた背景を読むことで、中国人の思考や中国を取り巻く国際情勢などが一目瞭然、見事なガイドです。
ジョーク集の説明に、言葉を費やしすぎました。私が申し上げなくとも、読めばすぐに分かります。是非、読んでみてください。